‡ZERO‡

Act.4 紅い瞳の朋友
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街の中央区に建てられた洋館。貴族、シェレメート家が所有する地。
物々しい扉を過ぎれば、丁寧すぎるほど手入れをされた広大な庭が広がっている。その一角には薔薇が植えられ、中心には、天使と悪魔がモチーフとなった噴水が腰を据えている。噴き上がる水飛沫で、その場所はきらきらと輝いていた。
紅い薔薇から雫が滴り、側に立っていた青年の指を濡らす。それを見遣るその目は、まるで薔薇から滴った雫のように真っ赤な色を宿していた。
夜の闇を閉じ込めたような髪は、絹のように靡き、それを時折青年が丁寧な仕種で押さえた。
その青年の元に、一人のメイドが歩み寄る。


「アレクサンドル様。ヴォルフ様よりお手紙が届いております」

「どうせ、見合いの話だ。放っておけ。この前、丁重に断っておいた」


アレクサンドルと呼ばれた青年は、首を戒めるネクタイを締め直した。
離れていくメイドに何気なく目線を走らせると、ふと門の前で盛大に突っ伏している銀色の髪をした子供に気がついた。その近くには林檎がころころと四方へ転がっている。
不注意なヤツだと顔をしかめた瞬間、子供が勢いよく立ち上がった。その額からはすり剥いたのか、血がだらだらと流れている。その血を服の袖で無造作に拭い、散らばった林檎をかき集めていく。
その時、青年の足にコツンと何かがぶつかった。目線を下げれば、赤く色づいた林檎が青年を見上げている。


「あれ……。あれ、林檎さんがいない」


子供は無くなった一つの林檎を探して、きょろきょろと辺りを見回した。その様子があまりにも必死だったので、青年は溜息を引き連れて、門の横の柵がある場所まで歩く。子供は近づいた事にも気づかず、着ている漆黒の外套をひっくり返したりしている。


「おい、お前」


呆れたように青年が子供を呼ぶと、子供は青空のような瞳で青年を見上げた。そして、手に握られている林檎を視認すると顔を輝かせた。


「お前のだろう?」


ぽやっと笑う子供に毒気が抜かれるのを感じながら、青年は林檎を渡した。
スラム街の人間ではなさそうだが、貴族というわけでもない。


「お前は、なんの偏見もないな」

「へ?」


少年が素っ頓狂な声を出した。そして、不思議そうな顔で青年を見上げる。
柵越しに、視線だけが交じり合う。
執事が自分を呼ぶ声に、青年は漸く視線を反らした。
背を向け、歩きだした青年の背に少年の声がかけられる。


「あの、ありがとうございました!!」


その声に立ち止まり、青年は微笑を浮かべる。そして、再び振り返る事なく歩きだした。







【Act.4 紅い瞳の朋友】
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