‡ZERO‡

Act.4 紅い瞳の朋友
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「っはあ……はっ…」


深夜、慌てて飛び起き、荒く呼吸をする。
闇に溶け込むような銀色の髪が、肌にぴったりとくっついていて気持ち悪かった。ホウプは、暫く荒い呼吸を繰り返し、漸くゆっくりと息を吐き出した。
肌寒い。身体が震えて仕方がない。冷える身体を温めるように自らの身体を掻き抱く。
最近、夢見が悪い。
長く息を吐き出し、額に手を添えるとピリッとした痛みが走った。慌てて手を離すと、額から血が滴り、手や顔を濡らしている。昨日派手に転んだのを忘れていた。
滴る血が寝具を染める。
その赤を見て思い出すのは、青年の紅色の瞳だった。ワインのように、濃く紅い色を宿した双眸。


「中途半端に起きると、寝れないんですよね…」


はぁと溜息を零し、さっさと寝具から身体を起こして身支度を整える。
そういえば、まだ読み終わっていない本があった。蝋燭に火をつけ、暖かい光の中で本を読みはじめる。
ぼんやりと活字を追っていく。頭に文字が入ってこない。通り過ぎていくただの情報だ。
もう一度溜息を零し、ホウプは本を閉じた。こういう時は、大人しく本を閉じるにかぎる。無駄にだらだらと字を追っていても、その本の趣を楽しむことはできない。
掃除でもしようと腰を上げた瞬間、ドアの外から僅かな物音が聞こえてきた。ビクッと肩を震わせて、思わずワルサーに手を伸ばす。
殺気はない。しかし、気配はある。
デルタ帝国軍かもしれない。彼等は、ZEROと敵対していて、しかも自分を狙う可能性があるのだ。
ゆっくりと息を吐き出す。安全装置を外し、スライドを引いた。銃把を握りしめ、壁に背を預ける。
本来、オートマチックよりリボルバーの方が扱いやすい。だが、壮弾数の関係もあり、ホウプはオートマチックのワルサーP99を愛用していた。それに精度の高さは必要ない。この銃は人の心臓や額を狙う用途として使用していないからだ。威嚇で十分な役割を果たしている。
副隊長が左右オートマチックとリボルバーで違うのは、それが大きく関係しているのだろう。オートマチックは壮弾数の多さを活かし威嚇や応戦に。リボルバーは愛用のコンバットマグナムをいつも使用し、確実に相手の心臓を撃ち抜く時にその引き金を引くのだ。
ホウプは強く瞼を閉じた。そして、再び瞼を押し上げる。
ドアノブが揺れる。軋む音を立てて、ドアが開いた。瞬間、入ってきた人影に拳銃を突き付ける。だが、難無く拳銃を掴まれ、銃口を反らされた。


「いい度胸だな、ガキ」


嗅ぎ慣れた煙草の臭い。ホウプは、安堵で息を吐き出した。


「団長…。気配を消して歩かないでくださいよ。はー、もうびっくりしたぁ…」


安全装置をかけ、中に押し込んでいた銃弾を一つ一つ机に並べる。
団長は、不機嫌そうな表情で部屋に押し入り、ホウプが先程まで寝ていた寝具に腰をおろした。
朝早いこの時間に団長が尋ねてくること自体珍しいのだ。こんな時間に何の用だろうか。


「団長、何か御用ですか?」

「あ?ああ、ガキ。これ見ろ」


団長は節くれだった指で、何かをホウプに突き付けた。
また要求書の類だろうか。げんなりとしながらそれを受け取ると、それは羊皮紙でできていた。そんな高額なものなのだろうかと、恐る恐る用紙を覗き込む。


「えーと、聖エリザベス学園への編入を許可する。聖エリザベス学園校長、エリザベス」


ホウプは、きょとんとしてその紙を見つめた。なんだろう、これは。


「え、団長…。これ、何」

「こないだ紙渡しただろ。あれ、編入の試験だ」

「いや、あの。そうじゃなくて……」


これはどういうことだろう。
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