‡ZERO‡

Act.4 紅い瞳の朋友
3ページ/25ページ


確かにこの間団長に紙を渡され、それを解くよう言われた。何気なくそれを受け取り、問題を解いた紙を団長に手渡したのが数日前。それが、学園編入試験だったのだろう。
そこまでは理解できる。しかし、何故突然学校に行かそうなどと考えついたのかが不思議でたまらなかった。団長は、基本的に自らの利益にならない事はしない。
これに何の利益があるのだろう。
そう思い、じっと団長を見つめると、団長は少しだけ俯きながら紫煙を吐き出した。燻る煙草の煙に肺が満たされるのを感じながら、ホウプは団長を見つめる。


「こっちにも色々事情があんだよ」


話せない事情があるという事だろうか。
そう思った途端、「違ぇ」と返された。心を読まれたようで、若干居心地が悪い。


「その学校の関係者にな、古い馴染みの情報屋がいんだよ。これからちょくちょく会わなきゃなんねぇ。だがな、何の関係もないヤツが出入りしてたら怪しまれるだろうが。そこから情報が漏れて、デルタに嗅ぎ付けられる可能性があんだよ。なら、テメェを入学させちまえばいい。俺は保護者として堂々と出入りできる訳だ」

「そんな理由で僕、学校に入学するんですか……」

「文句ねぇだろ。っつー訳だから、テメェちゃんと問題起こして、保護者がよく学校くる印象を植え付けとけよ」

「嫌ですよ!!行くんなら、真面目に出ますよ!!」


問題ばかり起こすような学校生活は送りたくない。少なくとも、自ら問題を引き起こすような真似はしたくなかった。
ホウプは、はぁと溜息を零す。しかし、学校にいけるのは正直願ってもない幸せだった。心が高揚し、浮足立っている。本の中でしか知らなかった世界。
よくよく考えれば、今まで同年代の友人などつくったことがなかった。周りにいるのは、みんな歳の離れた大人で、同年代の子供とは喋ったことすらない。
ホウプは許可書を抱きしめながら、団長に小さく感謝を述べた。今まで知らなかった事を知ることができるのだ。


「ところで団長。いつから学校に行けばいいんですか?」


一週間、早くて3日後には学校へ通うことになるだろう。
その間に色々としなければならない事がある。学校に行きながら、どうやって家事をしようか。必要なものを揃え、点検しなければならない。
とにかくやる事は山積みだ。
団長は、さも不機嫌そうに表情を歪め、煙草を口から離した。


「今日だ」

「…はい?」


何故と問う前に制服やら、鞄やらを投げ渡され、反論を封じられる。
投げられたもので埋もれてしまっている間に、団長は寝具から腰を上げた。僅かに寝具が軋み、小さく鳴く。
ホウプが荷物を掻き分け、漸く頭を出した時。すでに、団長がドアを閉めようとしている所だった。


「ちょ、団長……!!」

「早く寝ろ」


バタンと、ドアが小さく鳴った。
一人残されたホウプは、呆然と制服を見つめる。まるで正装のようなその服。深い赤のリボンタイに、細かく装飾の施された銀の釦。滑らかな手触りの生地。一目で上等なものが使われていると分かった。
知らないうちに瞼が落ちそうになり、思わず笑みを零す。
大嫌いな煙草なのに、団長が吸う煙草の臭いだけは安心できる。悪夢を煙で包んでくれる。辛い夜だけ、必要な分だけ団長はいつも手を差し延べてくれた。煙草の煙と共に。
寝具に倒れ、大嫌いな煙草の臭いを打ち消すように、大好きな煙草の煙が染み込んだ部屋に融けた。
太陽が夜の底を白けさせ始めていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ