‡ZERO‡

Act.4 紅い瞳の朋友
4ページ/25ページ



「隊長ッ!!そ、その格好は一体…」


きゅっとリボンタイを締め、カフスがちゃんと折り返っているか確認するホウプを見て、副隊長は目を白黒させた。
いつものように食堂に降りてきてみれば、何やら上等な服を着て家事をしているホウプと目が合った。思わず、その肩を掴み慌てて尋ねれば、ホウプは首を捻る。


「えっと……似合いませんか……?」

「あ、いえ!!凄い似合ってますよ、鼻血出そうです!!」

「いや、鼻血は出さないでくださいね!?」


たまに副隊長が鼻血を出すのを思い出し、ホウプは慌てて副隊長にちり紙を渡す。しかし、その原因が自分にあるとは思いもよらないようだった。
副隊長は、ホウプの事を上司ではなく、目にいれても痛くないほど可愛い子供だと思っている節がある。気分は思春期の娘を持つ父親だ。しかも、極度の親バカで心配性な父親。そのせいで、副隊長はよく鼻血を出す。たまに血の出し過ぎで貧血を起こすほど。
しかし、今回はなんとか血の暴発を防げたようだ。
それに安堵しながら、ホウプは嬉しそうに床を跳ね、副隊長に向かってぽやっと笑った。


「今日から学校に行くんです」

「へー、学校ですか。よかったですね」

「はいっ。あ、そろそろ行きますね」


いってきます。いってらっしゃい。と二人は、お決まりの挨拶を交わす。
ホウプが見知らぬ所に行くというのに副隊長は、反対もせず笑顔で送りだしている。そのあまりもの静けさと不気味さに、周りにいた団員達は不穏なものを感じ始めた。
無言が怖い。
団員達は、がつがつと貪るように朝ごはんにかぶりついた。彼等には分かっているのだ。これ以上、ここにいるのは危険だと。
副隊長は一つ溜息を零し、何やらごそごそと懐を漁りはじめた。その瞬間、ベレッタやらライフルといった拳銃達が床に転がった。
さらに、外套を脱ぐとその裏地にはナイフが勢揃いしている。腰に着けているベルトには爆弾が、靴にはワイヤーが仕込まれていた。
どこに隠し持っていたんだというその量。全身武器人間だと団員達が揶喩する前に、副隊長は手早く武器の点検をすませた。


「切れ味は、悪い方がいいんだよな」

「副隊長、副隊長。その後ろから立ち上る黒い物体を封じてください」


切れ味が悪いなどと縁起でもないことを言わないでほしい。団員達は、巻き込まれてはかなわないという風に遠巻きに自らの意見を主張する。
どうせなら、すぱっと一思いにしてくれた方がよほど幸せだ。嬲られるなんて大概の人間は嫌だ。
だが、そんなおどろおどろしい空気を一瞬にして払拭する甘ったるい声が響いた。


「あらぁ?どうしたの?」

「姐御ッ」


団員達は縋り付くように、現れたエイプリルの後ろに隠れる。ガタイのいい厳つい男達は情けなく、まるで言い付けるかのように副隊長を指差す。


「姐御。副隊長がまた一人で出かけようとしてます!!」

「姐御。副隊長がまた隊長バカになってます!!」

「姐御。アイツをなんとかしてください!!」


ぐちぐちと口々にそう言う団員達に向かって、エイプリルはにっこりと微笑んだ。それはもう天使のような笑みで。
その瞬間、副隊長は顔面蒼白になる。


「また隊長さんの後をこそこそついていくつもり?駄目よ、副隊長さん。そういうの世間では犯罪だから」

「いや…た、隊長が心配ですし……」

「うふふ。今すぐ止めないと……踏むわよ?」


ヒールのある靴を鳴らし、エイプリルは副隊長に向かって微笑む。
しなやかな肢体から繰り出される力は想像を超える。副隊長は土下座でもしそうな勢いで、壁に縋り付いた。ずきずきと苛まれる胃痛。


「さ、副隊長さん。買い物付き合ってね」


首ねっこを掴まれ、ずるずると引きずられる副隊長を見て、団員達は安堵で息を吐く。
漸く、平穏な食卓が戻ってきた。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ