小咄

□○○が壊れた日
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相変わらずうす暗い
いつもながら、わりと変態くさい
死など、不快に思う表現があるため注意してください



 ○○が壊れた日
神父×ホウプ×神父




 
大事にしていたものが壊れた。それは仕方ないことだ。この世界には時が存在する。だから、形を成しているもの、存在しているものはいつしか消滅するのが運命だ。その刹那的な儚さがあるからこそ、美しいという言葉があるのだと思う。何れ無くしてしまう、無くなってしまうものだからこそ、人はそれに惹かれていく。少なくとも、僕は永遠に存在しているものより、刹那的な存在の方が好きだ。人間然り、世界然り。たまにそれが悔しく、憎く思うこともあるけれど、それでも僕は刹那的なものが好きだ。



 
 
怪我の手当てしていた小鳥が死んだ。もうすぐ空に帰ることができたかもしれないのに。もっと何かしてあげられることがあったかもしれない。でも、後悔ばかりしていても仕方がない。次の存在はもっと大切にしようと決めながら、僕はきれいな小鳥を埋めた。美しい羽に砂がかかり、薄汚れていくたび言い知れぬ感情がこみあげてきた。僕は、この小鳥が好きだった。
栞が壊れてしまった。細い細工が施されていた鉄製のそれは、いっそすがすがしいほどばらばらに壊れてしまっていた。長い間使っていたから仕方がないかもしれない。だからこそ愛着が湧いてしまってる。ごみにまじって捨てるのが忍びなく、僕は小さなチェストの一番上にばらばらになった破片を一つずつ集めてしまいこんだ。引きだしを閉めると、栞の姿が見えなくなる。そこで僕は、自分が思っていたよりあの栞が気に入っていたのだと知った。
いつも使っていたペンが壊れた。見事にペン先がつぶれ、字を書くのは無理そうだった。とても使いやすく手に馴染んでいたのにと残念に思う。それだけじゃなく、悲しかった。これは、大切な団員達がプレゼントしてくれたものだから。栞以上に捨てるのが忍びない。だから僕は、栞と一緒にそのペンを仕舞い込んだ。そして、違うペンを握ったとき、僕はあのペンを大切に思っていたことを知った。
商店街でいつも食べ物を強請ってきた猫が死んでいた。食べ物をあげないと撫でさせてもくれない子。でも、たとえ食べ物をもっていなくても、こちらの顔を認識するといつも傍によってきてくれた。僕は悲しくて泣いた。この猫とは長い付き合いだったのに。泣きながら、猫のお墓を掘る。愛らしい顔や身体が砂で隠れてしまうたび、なんど掘り起こそうと思ったことか。
大切に思っているものはすべて壊れてしまう。
それを理解している。理解しているからこそ、目の前で酷くゆがんだ笑みを浮かべるこの人を拒絶することができなかった。
神父さんは、壊れた精神で(あなたが大切に思うものは)壊れた笑顔で(私ひとりだけで)壊れたように何かを(充分でしょう?)囁く。
拒絶したら、この人は跡形もなく壊れてしまう。あの小鳥のように栞のようにペンのように猫のように。それがひどく怖くて、僕は声をあげることも出来ずにただ壊れた彼を見つめていた。
拒絶しないと(お願いですから)僕はこの人に(私を)壊される(捨てないで)。

 
大事にしていたものが壊れた。

 


 
君が壊れた日

 


 

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