小咄

□一年に一度の、
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「あれ?まだ起きてたのか、丐」


寝付けなくてぼんやりと廊下を俳諧していると、まだ幼さの残る姿が月明かりにぼんやりと照らし出されていた。
夜目に慣れた瞳は、それがよく知る人物だと伝えてくる。
無意識に、声をかけた。
すると、幼い顔が不機嫌そうに歪み、舌打ちするほどの勢いで口まで歪ませる。


「んだよ。起きてちゃワリィのかよ」

「夜更かしすると、肌に悪いぞ?兄ちゃんからのアドバイス」

「いらねーよ、そんなアドバイス」


丐は、ケッとガラの悪い形相で俺を邪魔だとばかりに睨んでくる。
苦笑いを零しながら、丐の頭を軽く撫でた。


「寝付けない?」

「そんなんじゃねーよ!!ただ、空……綺麗だなって……」

「ああ」


つられて窓越しに空を見上げる。
空には生瀬の星。真っ暗な空に光る星達。それを造られたものだと考えてしまう自分が腹立たしい。随分長い間生きてしまったと自嘲してしまう。長い年月で、考え方が歪んでしまったのだろうか。
俺は、隣にいる丐が僅かに肩を震わせたのを見て、自分の上着をその華奢な肩にかけた。


「何すんだよ、夊」

「風邪ひくだろ?」


首を傾げれば、丐は不機嫌そうに顔を反らした。


「この、天然口説き魔が……ッ!!」

「え……?なんか俺へんな事言った?」

「だから天然口説き魔なんだよ、馬鹿野郎!!」


んー。そうかなぁ。
そう呟けば、丐は肯定するようにこちらを見てくる。
その瞬間。ひゅうっと、どこからか冷たい風が吹き抜けた。思わず肩を震わし、くしゃみをしてしまう。その瞬間、丐が笑った。


「カッコつけるんなら、最後までカッコつけとけよ」

「ゔぇ〜〜………がっごづけでる訳じゃない〜……」

「汚ねぇな!!鼻水垂らすんじゃねぇよ!!」

「ひどぐね……?」


鼻水を啜り、うぇ〜と声を漏らす。


「ったく、仕方ねぇな……」


丐は、上着の中に俺を引き入れた。
あったかい……けど。絶対上着伸びるよなぁ、コレ。もう着れないだろう。
でも、暖かいし、幸せだからいいや。
星が輝いている。1番、星が綺麗に見える日。


「そういえば、どっかの国では、今日だけ会うことを許された男女の物語があるらしいぞ」

「はぁ?なんで今日だけしか会えねーんだよ」

「えーと、確か二人が愛し合いすぎて仕事をしなくなったから………?なんか、天の川っていうのが橋になって……」

「意味わかんねーよ、その説明」


うん。俺もわかんない。
そういって笑えば、じゃあ、言うなよ。って言われた。
今日だけ会うことを赦された恋人達。恋人がいる訳でもないが、どこか自分と似ている。
理不尽でどうにかしたいのに、それを甘んじて受け入れる事しかできない。
だから、最後の最後まで割り切れない。


「もし、俺と丐ちゃんがそんな状況になったらどうする?」

「はぁ!?」

「一年に一回しか会えなくて、俺が丐に会いたくて泣いてたら……」

「あー。取り合えず………」


丐は、自身満々に俺に笑いかけた。


「そんな事決めた奴ぶっ飛ばして、ついでに、お前の事迎えにいってやるよ」

「っ!!」

「おわっ!?」


ぎゅうっと丐を抱きしめる。
あー、もう!!
抱きしめた丐が、腕の中でバタバタと暴れだした。


「おわっ!!テメ、離せ!!」

「あー、もうっ!!大好き大好き大好き!!好き好き!!」

「はっ!?何言ってんだよ!!馬鹿じゃねーの!?馬鹿じゃねーのッ!?」


顔を殴られた。すっげぇ痛い。
一年に一度の1番幸せな日。
このぬるま湯に浸かっていられるなら、頬の痛みぐらい我慢しよう。
丐なら本当に色んなものに縛られた俺を連れ出してくれそうだ。
でも、俺だって男だから。自分で鎖から逃げ出していつか必ずその手を掴んでみせる。



年に度の







そんなの関係ない!


一年に一度しか会えないなら、




そんな運命を壊して君を迎えにいくから




だから、お願い




もう少し待っててお姫様




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