04/24の日記

01:16
君の隣で空の青さを知った
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きらきらきらきら。
青い粒が丸い瓶の中で煌めく。緑の木々とその根本に集う動物たちに青い空が降り注ぐ。真っ白な地面が青に覆われると、再び瓶はひっくり返され青は空へと戻る。
何十回この光景を見ているのだろうか。
穏やかな午後の陽射しが瓶を輝かせ、透ける青の粒が一層煌めく。床に落ちた影さえ色ずく、そんな光景。
幼い子供は、自分と同じ色彩のスノードームを絶えずひっくり返している。
大好きな朱雀から貰ったらしいそれを子供はいたく気に入っているらしい。(というか、朱雀がくれたものだからというのが大きいのだろう)
マスターが買い物に行ってからどれくらい経っただろうか。その間、自分とこの子供は会話一つどころか声すら発していない。時間が止まったように、ずっとこうしている。
饒舌な自分がこうして黙っているのは、単に会話の糸口がつかめないでいるから。というだけではなく、有り体に有りがちに言ってしまえば苦手なのだ、目の前の幼い少年が。そして少年も此方の事をあまりよく思っていない。そうすれば必然的に無言になってしまうのも致し方ないだろう。
しかし、そうして無言を貫いていると静寂が肌を刺す。痛いんだ、この静寂。重苦しくて堪ったものじゃない。仕方なく静寂を断ち切るため、子供に言葉を投げ掛けた。

「綺麗だな、ソレ」

子供の手が止まり、視線がこちらへ向いた。
そういえば、朱雀は俺に何かくれたことがあっただろうか。(感情的な目に見えないものではなく、物質的なものを)
朱雀と子供の生活を思い返す。
食卓で隣り合う二人は楽しげに笑っていた。子供の食べっぷりを微笑ましく見つめる朱雀は、自分の分のパンを子供へと差し出した。
街を歩く二人は離れないように手を繋いで、店の前に吊り下げてあった服を朱雀が子供にあてる。「似合ってるよ」そう笑い、朱雀はその服を買った。
当たり前のように子供は朱雀から様々なものを貰っている。(それに比べて、些細なものさえ朱雀から貰った覚えのない俺は、)
それに、子供が手に持っているソレは。

「朱雀から何も貰ったことないからさ。少し羨ましいよ、アダムくん」

煌めくスノードーム。
それはあの神様が、たった一人のために作ったもの。不器用な手つきで、ただ彼を思いながら作ったもの。それは、きっと子供にとって素晴らしく輝いてみえているのだろう。
しかし、子供は珍しく此方に対して感情をむき出しにした。

「羨ましいとか、よく言えるな」

あからさまな敵意に思わず、此方も身構えてしまう。
子供に対して大袈裟だというのなら、ソイツはこの子供の手管に騙されている。ただの子供と割りきれるほど、目の前の手合いが生ぬるい相手でないことなど理解している。

「アイツは俺を頼ったり甘えたりしない」

スノードームが、きらりと煌めいた。
開いたドアから差し込む光は、待ち人の帰宅を告げる。
子供は、足音を聞きながら声を潜めていった。

「いいよなアンタは、あれだけ頼りにされて、甘えられて、アイツのこと守ってやれる」

マスターが部屋を覗いた瞬間、子供は先程までの殺気が嘘のようにマスターに笑顔を向ける。
俺はそれを見て、ただ溜息を吐いた。
隣の芝生は青く見えるとはよく言ったものだ。
俺達は与えられないものに徒に手を伸ばし続けているだけ。与えられないそれの代わりに腕に溢れるものを自覚しても、それもほしいと喚いている。まるで、人間みたいに。
そうだな、今度は俺からマスターになにかプレゼントしようか。

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