藍唄2

□42†悪のパレード
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9月。
暦の上では秋と呼ばれる頃。しかしまだまだ上旬。夏の名残は衰えることなくあった。
夜になっても長袖よりも半袖のほうが快適に過ごせる。



そんな夏の匂い漂わす、蒸し暑い夜のこと。




ドスッ




「うっ ぐはっ!」




夜の9時を回った並盛町の住宅街。家々に灯る明かり。漏れ出す楽しげな声に混じって何やら不穏な音が路上から発せられる。


場所は住宅街。人が集まっている所にも関わらず誰一人として物音に気付き出てこようとはしない。

いや、気付いてはいるのだろう。ただ巻き込まれたくないが為か。




「うぅ…っ」


「弱えー弱えーっ。風紀委員恐るるに足らーず!」




倒れ、苦しげに呻き声を上げる男。彼の髪型は今時なかなかお目に掛かれないリーゼント。
着ている制服、その左腕には 風紀 と刺繍された腕章。この並盛の秩序、そして権力の象徴と言っても過言ではない風紀委員。その証。



秩序を乱す者には制裁を。



その言葉を実行するべく、風紀委員は皆それなりの強さを持っている。

それをこうも容易く、そして圧倒的に叩きのめすことが出来るなんて。
這いつくばり、ボロボロになりながらも自分を見下し馬鹿にしたようなセリフを吐く相手を見上げた。




「貴様ら…っ 何者だ…」


「んあー? 遠征試合にやってきた、隣町ボーイズ?」


「それつまんないよ。早く済ましてよ、犬」




月に架かっていた雲が流れ、暗がりを明るく照らす。それによって明るみに出た襲撃者の姿。
その数2人。

舌っ足らずな喋り方をする金髪の少年に、帽子を被った猫背な少年。


軽口を叩く“犬”と呼ばれた少年よりも、手も足も出さずただ静観を決め込んでいる猫背の少年のほうが些か不気味さを放っていた。
人が殴り蹴られ、もがくその姿を目の前にしても眉一つ動かさないだなんて。




「コイツ何本だっけか? ちょっくら頂いてくびょーん!」




終いを促され、犬と呼ばれた少年はたすき掛けにしていたカバンの中からペンチを一つ取り出す。金属が剥がれ、赤黒い染みが出来ている。


そんな物を取り出して一体何をするつもりなのか。
嫌な予感ばかりが頭をよぎる。冷や汗が溢れた。




「なっ 何をする気だっ!?」


「恨まないでね〜、上の命令だから」


「ま、待て!やめ…っ」




悪気も何も感じない、ゲームをして楽しんでいるかのような笑みを浮かべ少年・犬は左手で風紀委員の髪を鷲掴む。右手にはペンチを持って。


髪を掴まれる痛みよりもそちらへの恐怖のほうが勝る。

何をするつもりなんだ、やめてくれ。こんな平成の世にそんな拷問めいたこと。中学生同士のケンカでどうしてそんな事をする必要がある。


懇願めいた制止も虚しく、ペンチが口の中に突っ込まれる。

骨が砕けるような音と悲鳴が響いた。











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