藍唄2

□45†浸入デート
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並盛駅前バスターミナルからバスに乗り、目的地である黒曜ヘルシーランドに向かう。バスで敵アジトに乗り込むのは初めだった為何とも言えぬ感覚が湧く。いつもは黒塗りの特殊装甲の車で向かっていたから。

自分はそうでもツナは違うのだろう。
これから元マフィアのところに戦いに行くのだ。


そんな、決して慣れ親しむことのなさそうな所へ日常の一部とも言える交通手段を使って行く。少しは安心だろうか。まだ普通だと。

いや、もしかしたらだからこそ恐ろしいか。


そっと瞼を閉じる。考えすぎか、彼はそこまで複雑ではない。
9月に入りまだまだ残暑厳しい青空の下、汗一つも流さずアリアは考えた。


『静かね…』

「新道が出来てからはこっちはほとんど車が通らねーからな」

『それにしても通らなすぎよね』


都合がいいとは思う。けれどあまりに不自然。

こうして道路のど真ん中を歩いていても車一つ通らないし、当然クラクションも鳴らされない。せいぜいがバスだろう。それも1日に数本程度、降車する客も稀と思われる。

現にヘルシーランド前と名の付くバス停で降りたのは自分たちだけで、運転手の醸し出す空気から久しぶりにここで客が降りたのだと推測出来た。
数年前までは沢山の乗客を乗せ、ここで降ろしたのだろう。


折角だだっ広い土地があるのだから使えばいいのにと、今は封鎖された門を見て思った。


「うわぁ… 既に不気味なんだけど…!」

『そぉ?私数々の建物をこんな風にしたわよ?』

「今そんな武勇伝聞きたくねーよおぉぉぉ!!」

「流石ッスアリアさん!」

「ははっ、アリアは相変わらずなのなーっ」


廃墟と成り果てた黒曜ヘルシーランドを前にいつもと同じように騒ぐ4人。敵がいるであろうアジトを前にしてこの様子とは些か緊張に欠ける気もするが、下手に力を入れすぎるよりいいのだろうか。

バスの中ではあんなに緊張しガチガチに固まったツナも、今は少し肩の力が抜けているようだ。


怪しくもニヒルに笑ってボルサリーノのツバに手を掛けると、リボーンは山本の肩から黒曜ヘルシーランドを一望した。


「ここは昔黒曜センターって呼ばれててな。ちょっとした複合娯楽施設だったんだ」

「黒曜センター…? …あっ!オレここ小さい頃来たことあるよ!カラオケや映画館、小さいけど動植物園もあって…」

『確かに、それっぽいものは何となくあるわね…。随分と無惨なことになってるけど』


リボーンが集めた情報によると、改築計画もあったものの一昨年の台風による土砂崩れで計画は頓挫。土砂の撤去及び改築にかかる費用が莫大となった為やむなく閉園へと相成ったそうだ。

資金繰りに首が回らなくてというのは企業であればよくある事だが、こういった娯楽施設でそういうのを感じるとは大変に物悲しい。


現実から少し離れたくて遊びに来た場所も、結局は現実ということか。


世知辛さを覚えながら正門に絡み付いた鎖を覗き込む獄寺の隣に並ぶ。


『(縄じゃなくて今度は鎖もいいかも。本当は熱したりしたいとこだけど、そんなの使ったら病院送りで大事になっちゃいそう。やっぱり程よくしかし趣向を凝らして楽しむのがSMの真髄よね!)』

「(隣から禍々しいオーラが…!)か、鍵は錆びきってますね…。この様子だと奴らはここから出入りしては」

『えいっ☆』

バキャッ

「ええぇぇぇ!!?素手で鎖壊したあぁ!??」


何とも可愛らしい声と笑顔を添えて、相反するように実に力強く両手で鎖をへし折るアリア。

力を込めに込めてようやっとというのではなく軽〜く、スナック菓子でも折るかのように。常々性格も能力も規格外だとは思っていたし理解もしていたが…。あぁ、そう言えば先日も片手で電柱を受け止めていた。


何故だろう。せめて武器を使って欲しかった。





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