腐敗した君に亡骸

□月明かりの晩餐
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ぐちゃり、ぐちゃり


深夜、静まり返った街中の片隅で満月の晩にそぐわない不快な音がする


不気味なほどに人気のない街中はまるでゴーストタウン
等間隔に並べられた信号は定期的に青から赤、赤から青へと移り変わり

建ち並ぶ店々のシャッターは強固なまでに閉じられ、ただネオンだけが点滅する。道路の端に停められた車は乗り捨てられたようにドアが開きっぱなしで。もちろん中には誰もいない

着けっぱなしにされたテールランプがチカチカと瞬き、ビルの壁に赤いライトを染み込ませる



ぐちゃ、 ぐちゅり



またあの音がした

粘着質な、水音に似た音。それは小さな音なれど、他に何一つ物音のしない街中にイヤに響き渡って

次第にそれは耳の中で延々とこだまし続け、耳を削ぎ落としてしまいたくなるほどの気の狂いを生む



背の低いビルが犇めくその波間から、どうやらこの音は発生しているようで


明かりと言えば、月光のみと言えるそんな中で蠢く何かがあった

月光がかろうじて届かない低い位置で“何か”は一心不乱に腕を上げては下ろし



ぐちゃっ ぐちゃり



うずくまる“何か”が腕を振り下ろす度に、あの水音が耳をつく



身体の半分を隠していた厚い雲がずるりと風に流されると、月が一糸纏わぬ姿へと剥かれ夜空へと掲げられた


柔い絹のような光が全てを露わにさせる


“何か”を隠していた影はあっという間に取り払われ、その姿を照らし出した

明るくなったことに気付いたのか、ピタリと“何か”は動きを止め丸く大きな月を見上げるとニヤリと口角を吊り上げ笑んだ


そして立ち上る煙のようにゆるりと立ち上がり、一歩後ろへ下がれば
そこには











溢れる血の池と肉片










今も尚広がり続ける血の吹き溜まりの中には、人の臓器の数々。その幾つかはまだ微かに脈打っていた


その血の流るる先を見据えれば、ビルの外壁に貼り付けにされた人の無残な姿

両腕を大きく広げ、両の掌には杭のようなものが深く打ち込まれており。さながらそれは聖人のようで







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