水星の人魚

□彗星の鱗
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さして奥深くもない岩窟。20mも歩けばすぐに一番奥に行き当たり。


ぴゅうぴゅうと吹き込む潮風が肌をベタつかせていく。その湿気で煙草も湿り、ついには消えてしまった。

舌打ちをしながら新しい煙草を取り出そうとするが、ピタリと手を止める。どうせまた同じ結果になるだろう、それならば無駄にすることはないと



口元に何もないのはどうも落ち着かないが仕方ないと頭を振り、人魚に繋がりそうなものはないかとしゃがみ込む

けれど見つかるものと言えば蟹の抜け殻やらフジツボ、船虫とまぁありきたりなものばかり。


まるで成果のない釣果にガックリとしているとキラリと何かが光った


何だ何だと近づけばそこにあったのは魚の鱗。それだけなら別に何ともないのだが、その鱗というのがイヤに大きい。

この辺一帯でこんな鱗を持った魚がいただろうか?


それに何とも不可思議な色合いの鱗だった。
手に持っているときは白く光沢があるだけだと言うのに、光に透かすと驚くほどに向こう側が透けて見え、七色に輝いているのだ。




「すげ…」




手に持っている鱗にも、鱗越しに見える世界にも感嘆の言葉を漏らさずにはいられない。
いつも灰色に見えていた世界がこんなにも美しいだなんて…。


心臓に近く、けれど心臓とは全く別の心という場所が大きく揺らいだ。

レンズのように鱗を持ちながら、すーっと左から右へ海を見ていく。
ざぷんざぷんと波打つ海水がキラキラと輝いて見える。空も、波しぶきも波間に現れた大きな大きな魚が海を叩くのもすら美しい




「…あ?」




低い声を上げ、一気に表情を変える。

ピタリと動きを止め、海を睨みつけ一点に集中する。今見えた、大きな大きな魚はどこかが何かがおかしい。









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