水星の人魚

□淡水パールさながら
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バタバタバタ。
ガサガサガサ。



走り上下すり体に合わせてビニールの擦れる音が鳴る。昨日とは違って制服姿の獄寺は、学生カバンとは別に大きなビニール袋を片手にぶら下げていた


リズミカルに走っていけばそれに釣られてビニール袋の中身も跳ねる。

息を切らして向かう先は昨日の並盛海岸、そこにある岩窟。
彼女は、人魚はもう来ているだろうか。

思えば何時に、だとか時間指定をしなかったのがこの焦りの原因だ。


もっとも、指定したところで時間というものが理解出来ているかが甚だ疑問だが




「(そもそも来てるかどうかも…!)」




人の言葉が通じるのかも分からないのに、一方的に約束してしまった。もしかしたら来ていないかもしれない。

自分からした約束を破るほど、人として低レベルな人間ではなくって



はっ はっ と息を切らしながら岩場を歩き岩窟へ辿り着く。
ヒョイッと中をのぞき込むが、人影?は見当たらず


やはり一方的な約束に応じたくなかったのだろうか…。無理もない、自分を捕まえようとした人間に再び会おうだなんて誰がする




「(…仕方ねぇ、とは言ってもやっぱちょっと残念だな。せっかく間近で人魚見るチャンスだったのに…。)」




もちろん昨日の感謝と謝罪もある。あるがやはり…。


はぁ、とうなだれながら岩窟の一番奥、鱗の落ちていたところへ腰を下ろす。

ゴソゴソとカバンを漁り、あるものを手に持つ。そっと手にしたそれは拾い、保管しておいた人魚の鱗


白なのか半透明なのか曖昧な色合いの鱗を見ながらもう一度ため息を吐いて、立てた膝に顔を埋める。









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