1st

□君は強くても
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「ったく…、厄介なことになってきそうだぜ」
トリニティ兄弟との会談を終え、ブリーフィングルームに居残っていたロックオンにアレルヤ、スメラギの三名は三者三様に重苦しい吐息を漏らした。
「まあ、今の私たちには彼等に対する情報が少なすぎるわ。しばらく動向を見守ることにしましょう。さっ、ろくに休みもせず宇宙に上がってきて疲れているでしょう? しばらく休息してちょうだい」
スメラギにそう言われ、ぽんぽん、と背を叩かれると張り詰めていた精神がとたんに緩急した。それと同時にどっと疲労の波が押し寄せてくる。
無理もない。タクラマカンから太平洋第六スポットに帰投し、小休止を得た後、すぐに宇宙へ上がるための手配をし、現在に至るのだ。いくらマイスターとして鍛えた屈強な身体でも、悲鳴を挙げ始めている。
「ああ、そうさせてもらう。行くぞ、アレルヤ」
「うん…」
ロックオンはアレルヤを促すと共にブリーフィングルームを後にした。
とりあえずパイロットスーツを着替えようと二人はマイスター専用のロッカールームへと向かう。
ロックオンが扉を開けると同時に急に背後から軽い衝撃を受けた。
「うお…っ…? ア、アレルヤ…?」
アレルヤがロックオンの背にその身体ごとぶつけてきたのだ。微重力である空間ではその反動に踏み止まることができず、二人してロッカールームの奥へと漂うように流されていく。
ロックオンは途中、身体を反転させアレルヤを胸に収めるようにしてから壁に背を当てることで漂う身体を止めた。床に足が着き、体勢が安定してもアレルヤはロックオンの胸に顔を伏せて動こうとしなかった。
「どうした、アレルヤ」
「…ごめん…、しばらく…こうさせて…」
胸元を掴む手が縋るように弱々しく震えていることに気付いたロックオンはそれ以上問うことは止め、背に腕を回して抱きしめてやる。するとアレルヤが安堵するように細く息を吐いたのが判った。
アレルヤは打ちのめされていた。身体ではなく、心が。
その要因が何であるかは、ロックオンにも解かりきっていた。あのトリニティの次兄だと言う蒼髪の奴が吐いた暴言。

『不完全な改造人間くん』

ヴェーダ経由だろうが、あの言い様はアレルヤが人革連の超兵機関にいて幼い身体を弄ばれた過去を知っているのだ。聞くに堪えない悪の所業を知っているうえで、単なる笑い話のように揶揄した。
その時の奴の顔が脳裏にちらついてロックオンは忌々しく奥歯を噛む。
悪気はなかったなどとは言わせない。あれは完全なる悪意を以ってして発した言葉だった。その心無い発言に今、腕に抱く青年はどれだけ胸を痛めたのだろうか。
ロックオンはアレルヤの胸中を慮り、抱きしめる腕にさらに力を込めた。
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