1st

□君は強くても
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どれくらいそうしていただろうか。
もそりとアレルヤの頭が緩く動く。ロックオンはそれでアレルヤがようやく心の平静を取り戻したのを察した。ならばいいだろうと、抱いていた腕を緩め髪を撫でるものに変え、唇もあやすように髪や頬に滑らせてやる。
「…ロックオン…」
アレルヤがそのくすぐったさに肩を竦める。頬を両手で包んで上向かせてやれば、僅かに潤んだ銀灰の瞳とぶつかった。
「大丈夫か?」
ロックオンが問うと銀灰の瞳が軽く見開かれ、次に泣き笑いのように歪んだ。頬に添えられている手に自身の掌をそっと重ねる。 
「うん…、大丈夫。だいぶ落ち着いた。ありがとうロックオン。…貴方が居てくれてよかった」
感謝と嬉しがらせを告げてくれるアレルヤにロックオンも微笑み、唇へと軽く口付けを贈る。
この自分の存在でアレルヤの心の痛みが取り除けると言うのなら、いくらでも傍に居てやる。独りになどさせない。
いつもまでもこうして傍にいて彼の心の安寧を守り続けたい。
ロックオンはそう胸に思い、再びアレルヤを抱き寄せた。アレルヤもそれに応えてそっと身を委ねる。
「でも…どうしてだろうね…」
「ん?」
「どうして、ああやって人の傷を抉るような真似を平気でするのだろう…」
呟きと共にアレルヤの瞳にすっ、と暗い光が宿る。
あの蒼い髪の奴はあからさまに面白がっていた。長兄の方も窘めはしたが、その表情は薄い笑みを浮べていたのを見逃さなかった。
人が人に煩悶を与えて何になる。そんなことだから世界の悪意は消えはしないのだ。
アレルヤは口惜しさに表情を歪めると俯き、肩を微かに震わせた。その所作を見てロックオンは緑がかった黒髪を優しく撫でてやる。
「アレルヤ…、泣くなよ」
ロックオンの囁きに、アレルヤは弾かれたように顔を上げた。きつい視線でロックオンを見据える。
「泣かないよ…! 泣いてなんかない! 僕が泣いたらあんな奴の言葉に屈したことになる。それに…! 僕の中のハレルヤまで貶められる…。そんな…そんな事、絶対に許さない…!!」
怒り露わにするアレルヤの銀灰の瞳が美しいほどに爛々と輝く。
綺麗だ、とロックオンは素直にそう思った。
いつも自分が傷付きながらも、他者をも心配して守ろうとするその姿勢がロックオンは何よりも愛しいと。
その痛ましいまでの深い慈愛がいつか報われればいいと。
「…強いな。アレルヤは」
敬慕の念を抱きつつ、愛してるよ、そう呟いて翡翠の瞳をロックオンは細めた。腕を伸ばしてその身体を強く抱きこんでやる。
「っ…ロックオン…」
背に回る腕が強く縋る。
「ごめ…、ごめんなさい…。貴方に八つ当たりした…」
「構わないさ。内に溜められるよりよっぽどいい」
愛してる。
もう一度呟いて、ロックオンはアレルヤにそっと口付けた。



君は強いけど

泣かないわけではないのだから。



END




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