いちご†盗人

□9、Like a mystery.
4ページ/21ページ

 

「嘘を言ってるのはそっちじゃないか。いいかげん、白状したらどうなんだよっ」


 怒声とともに、ばたんとドアが開かれる。

 狭いワンルーム。踏み入って来た少年に右肩を突き飛ばされ、私はあっけなくベッドの上に崩れ落ちる。


「きゃ」

「そっちがその気なら、考えがあるって言っておいたよね」

「え、や、いやっ」

「どうやってナツにあれだけ取り入ったのか知らないけど」


 両手を押さえつけられたら、奥歯がかたかた震え出した。

 覆い被さってくる彼はあどけない顔立ちだけれど、きちんと男の体をしている。

 知っている、と思った。こんな恐怖を、過去にも。

 それは新婚初夜の記憶ではなくて、もっと、もっと遠くの。

 なに、これ。


「ねえ、大事な大事な君が他の男と関係を持ったとしたらどうなるかな」

「い、やだ、かな―― 叶っ」

「年下だけど、僕だって男なんだからね」


 こわい。こわい、怖い。


「嫌なら離婚届に判子を押して。僕がナツに届けてあげる」


 こわい、なのに、どっちもいやだ、と感じてしまう私は変かな。

 いやだよ。肖衛と別れるのも、肖衛以外の人に触られるのも、両方。だけど。

 離婚したくないと思っているのは、私だけなのかもしれない。

 だって肖衛は、立ち去る私を追いかけて来てはくれなかった。

 言い訳のひとつもしてくれなかった。


「……早く降参してよ。頼むよ……」


 叶の声が、震えていることに気付いたのはそのとき。

 すると耳元で、けたたましい音を立てて携帯電話が鳴った。叶のものだった。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ