いちご†盗人
□9、Like a mystery.
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「嘘を言ってるのはそっちじゃないか。いいかげん、白状したらどうなんだよっ」
怒声とともに、ばたんとドアが開かれる。
狭いワンルーム。踏み入って来た少年に右肩を突き飛ばされ、私はあっけなくベッドの上に崩れ落ちる。
「きゃ」
「そっちがその気なら、考えがあるって言っておいたよね」
「え、や、いやっ」
「どうやってナツにあれだけ取り入ったのか知らないけど」
両手を押さえつけられたら、奥歯がかたかた震え出した。
覆い被さってくる彼はあどけない顔立ちだけれど、きちんと男の体をしている。
知っている、と思った。こんな恐怖を、過去にも。
それは新婚初夜の記憶ではなくて、もっと、もっと遠くの。
なに、これ。
「ねえ、大事な大事な君が他の男と関係を持ったとしたらどうなるかな」
「い、やだ、かな―― 叶っ」
「年下だけど、僕だって男なんだからね」
こわい。こわい、怖い。
「嫌なら離婚届に判子を押して。僕がナツに届けてあげる」
こわい、なのに、どっちもいやだ、と感じてしまう私は変かな。
いやだよ。肖衛と別れるのも、肖衛以外の人に触られるのも、両方。だけど。
離婚したくないと思っているのは、私だけなのかもしれない。
だって肖衛は、立ち去る私を追いかけて来てはくれなかった。
言い訳のひとつもしてくれなかった。
「……早く降参してよ。頼むよ……」
叶の声が、震えていることに気付いたのはそのとき。
すると耳元で、けたたましい音を立てて携帯電話が鳴った。叶のものだった。