いちご†盗人
□#An extra entertainment.
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「初穂がいると落ち着いて仕事ができない。迷惑だよ。そう何度も言ってるのに、しょっちゅうここに入り浸るんだ」
「よほど社長のことが好きなんでしょう」
「ありがたくないよ。ベースの腕さえなければクビにしてるところだ」
「そうおっしゃらずに。彼にとってそのように、外見でなく本当の才能を見いだしてくれるのは―― あなただけなのですから」
そうかな。俺は口角だけをあげて、ワークチェアに体をもたれる。
初穂の才能を認めている人間は、本人が気付かないだけで結構いると思うけど。……まあいいや、初穂のことは、もう。
気を取り直してデスクライトをつけ、書類に目を通し始めた俺は、五行目で早速視点を止めた。
「柳、ここ、間違い」
「えっ」
「甲と乙が入れ替わってる」
すみませんっ、と言って狼狽える柳はステージ上では想像もできないくらい可愛らしい。
そう、柳は可愛いのだ。
鋭い一重と真面目そうな眼鏡の所為で切れ者だと思われがちだが、実際にはうっかりしているところが多くて、放っておけない性質をしている。
そうして俺は、そんな彼が狼狽えているさまを眺めるのが好きだったりする。
セリに言わせれば、これは悪趣味の域に入るのだろうけど。
「あ、ここも。日付が契約日になってない」
「す、すすすみません!」
「ふふ、謝るだけなら幼稚園児にも出来るんだよ?」
「申し訳ありません、今すぐ直して参りますっ」
「五分以内にね。一秒でも過ぎたら……そうだなあ、新曲のプロモで着ぐるみでも着てもらおうかな」
「はいっ、では失礼します!」
ああ、ほんと、かわいい。癒されるなあ。