いちご†盗人
□2、Time will tell.
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結局その日、私は終日離してもらえず、ようやくお役御免になったのは翌朝八時を過ぎてからだった。
拘束時間、のべ三十四時間。とんだ過剰労働だ。
と、言っても、例のお盛んな行為ばかりを繰り返していたわけではなくて、当然食事もしたし、時にはテレビを見たりもした。
そういえば、初めてゆっくり会話もしたっけ。
内容はというと、私ばかりが喋っていたからあまり実のない話だったと言えるけれど。
例えば家族のこととか、友達のこととか、大好きなシヴィールの曲のこととかだ。
肖衛は相づちを打つばかりで、あまり自分のことを語ろうとはしなかった。疲れていたのかもしれない。
先週までツアーで全国を飛び回っていたせいだろう。
何度かうたた寝もしていたから、元気いっぱいでなかったのは確かだ。
私が逃げ出さなかったのは、手をしっかり握られていた所為でも、寝顔が殺人的に可愛かった所為でもない。
憧れの人だとわかったから、というのが理由の半分で、あとの半分はというと、義理、だった。
肖衛は言った。ナツではなくて、自分のことを好きになって欲しい、と。
無茶な注文だと思う。
しかし私は彼に、現時点で二千万円の借りがある。つまり、意に沿うよう努力するだけの義理があるわけで。
肖衛を、好きになる……。
清水の舞台から飛び下りるほうがまだ、現実的に思えた。