いちご†盗人

□3、Hide-and-seek.
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「はいこれ、夕べ渡すの忘れてたけど、セリに」

「え、いいの」

「俺とお揃いで良かったかな」


 良かったかな、も何も事後承諾だし―― という文句を呑み込んで素直に頂戴したのは、それが、ずっと欲しいと思っていたものだったからだ。

 いや、どんなものを与えられたって、私は文句なんて言えない立場なのだけれど。

 久々に手にしたせいか、やけにずっしり重く感じる。軽量化が進む昨今、重いだなんて変な話だ。

 携帯電話。

 ここ数年、使用料が払えずごぶさただったそれは、現代の生活必需品ってやつ。


「俺の番号は入れておいたから、いつでもかけておいで」


 廊下の先を行く肖衛のカツラにはトサカみたいな寝癖がついていて、歩くたびにぴょんぴょん揺れるのがおかしい。

 何故カツラのまま寝るのだろう。寝にくくないのかな。謎だ。


「セリの声が聞けたら、仕事の効率もあがると思うし」

「いや、仕事中はきちんと仕事に集中しなよ。みんなに怒られるよ」

「そうかな。じゃあ、メールでも」

「ほ、ほら、朝ご飯できてるよ。ちゃんと食べて出かけてね」


 結婚して一週間、私は自然と、彼の身の回りの世話をするようになっていた。

 もともと、母に代わってすることが多かったから、炊事洗濯掃除はどれも得意なのだ。

 他にすることがなかったから、というのが一番の理由だけれど、後ろめたさもあったと思う。

 借金を返済してもらった上に、ただで居候というのもどうかな、と。


「何? 今日の朝ご飯」

「ホットドッグ。肖衛の好きなモカもドリップしたよ」

「それは嬉しいね」

 
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