いちご†盗人
□7、Speak of the devil.
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「もしもし、未知、私だけど。ごめん、今、仕事中だよね……」
『うん、まあそうだけど。どうした、こんな時間に。なにかあった?』
「あのさ、聞きたいことがあるんだ。手短に済ませるから教えてくれるかな」
『おう、何だよ、早く言いなよ。あ、でも離婚手続きのことなら専門家に聞いたほうがいいぞ』
「そうじゃないって。あのね、は、初デートに関してなんだけど」
遠慮がちに本題を切り出すと、予想通り未知は『はあ?』と素っ頓狂な声を発して驚いてくれた。
いや、驚くというよりはあっけにとられたというべきかも。なんだか、そんな響きだった。
『なんだ、突然。もしかアレか、早速不倫か』
「どうしてそういちいち発想が昼ドラ寄りかな。相手は肖衛だよ。れっきとした戸籍上の夫ですよ」
『え、マジで』
肖衛が部屋を出て行ってから約三十分をただ茫然と過ごした私は、我を取り戻して真っ先に思った。
これは―― もしや初デートではと。
だとしたら、一大事。
何を着ていったらいいんだ。靴は? 髪型は? というか、そもそもデートって何をしたらいいの。お会計は割り勘にすべき、とかよく聞くけど私、お金ないし。
と、私のデートに関する知識なんてこんな、悲しいくらいお粗末なもので。
いよいよ困り果てた挙げ句、現在立派に彼氏持ちである未知に教えを乞うたわけだ。
ちなみに現在地は二階のトイレ。
肖衛には絶対に聞かれたくない内容だから、こっそり携帯電話を持ってここにこもったのだけれど。
俯瞰して考えると、おかしな状況だ。トイレでデートの話題って。
「こんなの初めてでしょ。だから私、どうしたらいいのかわからなくて」
『初めてじゃないじゃん。例の強姦未遂のときだって、嫌々デートに行ってたし』
「それとこれとはわけが違うよ」
『どこが』
「それは」
それは。ええと。……詰まってしまった。