いちご†盗人
□9、Like a mystery.
1ページ/21ページ
1
私は少しの間、夢を見ていた。
―― ねえちゃん、あいつに泣かされたらおれに言えよ!
弟の奏汰(そうた)がそう言ってくれたのは、結婚を翌日に控えた夜のこと。
ちなみに、あいつ、というのは肖衛をさす。
それまで奏汰は私にとって、今年で十歳を迎えるにもかかわらずいつまでも幼稚園児の感覚で、幼くて、護ってあげなければならない存在だった。
そう思ってた。
でも、……それだけじゃなかったってことなんだよね。
思い起こしてみれば―― 飛行機のパイロットになって、沢山稼いで、いつか父の工場を助けてあげるんだ、なんてことも言っていたっけ。
いつからあんなに強い男の子になっていたのかな。
―― おねえちゃん、かえってくるよね?
涙をこらえて私の指をきゅっと握ったのは、妹の花梨(かりん)。咄嗟には答えられずに、私は黙る。
そんな情けない姉の首をどうにか縦に振らせようと、花梨はつぎつぎにオモチャのおままごとセットを並べ出す。
―― わたし、ケーキ屋さんになる。おねえちゃんにはとくべつに、まいにちケーキあげるから。だからまいにちかえってくるといいよ。
泣き虫で、いつまでも小さくて、幼稚園のクラスではいつも隅っこのほうにいる花梨。
なのにこのときばかりは妙に気丈にふるまうから、見ているこちらのほうが泣いてしまいそうだった。
翌朝、私はふたりの枕元に欲しがっていたゲームとエプロンをそれぞれ置いた。
――さよなら。
この結婚をきっかけに余裕が出れば、ふたりの夢はきっとかなうよ。
それが私の夢だよ。
静かに玄関先へ向かい、父と母に見送られて家を出た。
奥から泣き声が聞こえた。
卒業式の最中、それを思い出してひとしきり泣いた。
何があっても帰らないと決めた、あの日――。