いちご†盗人

□9、Like a mystery.
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 私は少しの間、夢を見ていた。


―― ねえちゃん、あいつに泣かされたらおれに言えよ!


 弟の奏汰(そうた)がそう言ってくれたのは、結婚を翌日に控えた夜のこと。

 ちなみに、あいつ、というのは肖衛をさす。

 それまで奏汰は私にとって、今年で十歳を迎えるにもかかわらずいつまでも幼稚園児の感覚で、幼くて、護ってあげなければならない存在だった。

 そう思ってた。
 でも、……それだけじゃなかったってことなんだよね。

 思い起こしてみれば―― 飛行機のパイロットになって、沢山稼いで、いつか父の工場を助けてあげるんだ、なんてことも言っていたっけ。

 いつからあんなに強い男の子になっていたのかな。


―― おねえちゃん、かえってくるよね?


 涙をこらえて私の指をきゅっと握ったのは、妹の花梨(かりん)。咄嗟には答えられずに、私は黙る。

 そんな情けない姉の首をどうにか縦に振らせようと、花梨はつぎつぎにオモチャのおままごとセットを並べ出す。


―― わたし、ケーキ屋さんになる。おねえちゃんにはとくべつに、まいにちケーキあげるから。だからまいにちかえってくるといいよ。


 泣き虫で、いつまでも小さくて、幼稚園のクラスではいつも隅っこのほうにいる花梨。

 なのにこのときばかりは妙に気丈にふるまうから、見ているこちらのほうが泣いてしまいそうだった。

 翌朝、私はふたりの枕元に欲しがっていたゲームとエプロンをそれぞれ置いた。

――さよなら。

 この結婚をきっかけに余裕が出れば、ふたりの夢はきっとかなうよ。

 それが私の夢だよ。

 静かに玄関先へ向かい、父と母に見送られて家を出た。

 奥から泣き声が聞こえた。

 卒業式の最中、それを思い出してひとしきり泣いた。


 何があっても帰らないと決めた、あの日――。

 
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