いちご†盗人

□10、He makes me feel as if I know nothing.
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「その程度の謝罪で……ていうか謝罪らしい謝罪すらせずに妻の許しを得られるなんて、肖衛くん、ほんっとにいいご身分だわ。事務所住まいの間中、道ばたの貧乏草でも食って生きてりゃいいのよ」


 清々しい笑顔で美鈴さんは毒を吐く。かきあげた髪の生え際がさかんに引きつっているのを見、私は愛想笑いしかできなくなる。

 現在、彼女の顔のパーツにおいては唯一、額だけが感情に正直だ。

 私は監督特製のネギみそラーメンを前に割り箸をわって、肩をすくめた。


「未知にも甘いって叱られました」


 あれから――ナツと和久井加恋の熱愛報道が列島を駆け巡ってから――4日。

 私は肖衛の提案通り実家での生活を始めていた。

 簡単な荷物しか持参しなかったものの、それで不都合があるかといえばそんなことはない。

 狭い家の中にはまだ私の私物が出て行ったときのまま、数多く残されていたから。多少埃をかぶってはいたものの、払えば何ら問題なく使えた。

 今日は買い物へ行こうと家を出た途端に美鈴さんから連絡があって、ここ、やまだ屋へと赴いたのだけれど。


「まあね、私も叱りたいくらいだわ。いくらなんでも寛容すぎるもの。普通、旦那に浮気疑惑が持ち上がったら、動かぬ証拠を掴んで突きつけるか、血反吐をはくまで問いつめるか、いずれにせよぎゃふんと言わせるもんよ。それが妻ってもんよ」


 血反吐をはかせる手法は彼女特有だと思う。


「あの、でも、私も言いたいことは言いましたし、初穂とふたりきりでいたのも申し訳なかったっていうか、肖衛もあの記事は誤解だって言ってくれたから……」

「だからそこが甘いっていうのよ」

  
 ずばり言い切って再び髪をかきあげると、美鈴さんは豪快にラーメンをすすった。

 無関係だろうに、餃子に差し水をしていた監督が、カウンターの向こうで肩をはねあげる。巨体がすっかり縮み上がっている。

 どうやら美鈴さんのヒステリックぶりはやまだ屋にまで知れ渡っているようだ。
 
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