いちご†盗人
□12、Because you are liar.
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“悪法もまた法なり”
とかなんとか言ったのは誰だった?
海へと向かう車中、肖衛にそう尋ねたら「ソクラテスだよ」即答だった。
流石は、董胡をしてガリ勉と言わしめただけのことはある。
さらに例の一糸乱れぬラインマーカーの線を思い出したら、私はただ感服するしかなかった。
きっと頭の中もあのくらい整然としているにちがいない。
「どうしたの急に。ガラにもなく難しい話」
「うん、世界史の時間に先生がそんなこと言ってたなぁって」
「ふうん。それはまた穏やかじゃないね」
「穏やかじゃない?」
「うん。だってそれ、ソクラテスが死刑になって毒杯をあおるときに言った、とかいう台詞じゃない」
「……そこまでは知らなかった」
もっと静かに物事を悟ったときの台詞かと。いや、そもそもソクラテスさんって何をした人?
って言ったら呆れられるかな。
私は半笑いで、持参した水筒から、麦茶をコップに注ぎ入れた。
――今日は待ちに待った海デート当日。
フロントガラスに広がるのは期待を上回る晴天。日差しもじゅうぶんで、行楽にはもってこいの気候だ。
ただ、海水浴となると若干肌寒い。
それで、肖衛は出掛けにホテルの室内プールを予約してくれた。貸し切りだそうだ。
もちろん海辺にも散歩程度に立ち寄る予定で、そのためにお弁当も用意してきたのだけれど。