いちご†盗人
□#An extra entertainment. 3
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愛する人と迎える人生最良の日。すなわち、セリとの結婚式当日――。
俺は絶望していた。そうだ、どん底だ。
別に、彼女の花嫁姿を見るのが嬉しくないわけじゃあない。ひとりの男として、この年になってこれだけ華々しい節目を迎えられるなんて感無量だと思う。
けれど、手放しには喜べない理由がひとつ。いや、細かく言えばみっつか。
だが、それらは元を辿れば同じところから発生していて、だからひとつと括れるわけで、ゆえに根は太く深いから厄介なのだった。
「夏肖くーん、ぬいぐるみ電報どこに置く? って会場係の人が聞いてたけど」
着替えとヘアメイクを済ませ、待合室でがっくり肩を落としていた俺の前にまず現れたのが美鈴さんだった。
「あ、うん、それ全部いまここに貰えるかな……抱き締めて眠りたい……永遠に」
「何言ってんの、酷い顔しちゃって。せっかくのタキシードが台無しよ」
「自覚はしてるよ。でも、もう、折れた。心が」
「やあね、もしかして昨日のこと、まだ気にしてるの?」
「気にしないわけがないじゃないか。もう、生きる気力をなくしたよ。だって娘に、可愛い娘に、生き様をまるごと否定されたんだからね……」
しぼみゆく風船のように長いため息を吐いてソファーに転がる。胸元の薔薇が潰れたけれど、かまうものかと思った。
俺のほうがもっと潰れている。だって、まさか、あんな……。ああああ、ありえない。
「まあでもさ、野蛮、だっけ。難しい単語をよく覚えたもんじゃない。利発な子だと思うわよ。立派立派」
フォローのつもりなのか、美鈴さんは言って生暖かい視線を寄越した。
「状況を無視して簡単に褒めないでくれるかな。まあ、確かに未生(みお)は三歳にして親をも凌ぐ天才児だし、将来は美人になることうけあいの天使のような子だけども」
「夏肖くんの親バカぶり、本当にすがすがしいわ。いっそ銀河系の彼方まで突き抜けてしまえばいいと思う」