いちご†盗人
□1、All's fair in love and war.
3ページ/15ページ
2
最寄駅まで徒歩五分、庭付き池付き外車付きの地上三階建て。
外壁は防火だか防寒だか防汚だかの効果がある大理石で、日がな太陽光を反射している傍迷惑な一軒家。
ここが今日から私の―― 坂口芹生(さかぐち・せりな)十八歳の、住家。
近所にちょっと古風な商店街があるせいか、耳を澄ませば絶えず人のざわめきが聞こえる。
だから静かとは言えないけれど、住みにくいということもない。
引越し前、家族で暮らしていたアパートは線路の真裏で、耳に入るのはもっと刺さるように冷たい音ばかりだったから、こういうのなら構わないと思う。
あいさつが普通に交わせる街。昭和の雰囲気を残した、優しい街。
いいところなんだ。この状況でなければ。
前述で察して頂けたかもしれないが、私は高校卒業とともに好きでもない男のもとに嫁いだ。お見合い結婚だった。
それこそ時代錯誤な話なのだけれど、発端は父の借金。
言ってみれば私は、借金のかたに売られた不運な女の子なのだ。
とはいえ、父を責めるつもりはない。
家族のために頑張った結果だということは、重々承知しているから。
最初は、海外の投資会社がどうにかなったところで、下町の小さな工場にまで影響が及ぶなんて思いもしなかったけれど。