いちご†盗人

□2、Time will tell.
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「セリ、ちょっと髪、押さえてて」

「え、あ、うん」


 セミロングの黒髪を顔の両脇でおさえると、背中のファスナーが音を立てて滑った。

 お役御免になった、とはいえ私はまだ寝室という鳥篭の中、なんと肖衛にメイクと着替えを手伝ってもらっている。

 自分でできると何度も言ったのに、どうしてもしたいと押し切られてしまって。

 お陰で下着姿もばっちり見られたし、サイズまでチェックされたとか、考え得る限り最悪の事態だ。

 けれど、彼が用意してくれた服を目にした瞬間、恥ずかしさは一気に吹き飛んだ。

 ヴィヴィアン・ウエストウッドの、黒のワンピース。

 ヴィヴィアンの服は雑誌で見てずっと憧れていたものの、何しろお値段が財布にちっとも優しくない。

 だから私のような庶民には、一生縁がないと思っていたのに――。

 と、油断していたらうなじに突然柔らかいものが押し当てられた。


「ひゃぅっ!?」


 両手でそこを押さえて振り返ると、今度はがら空きになった額にキス。


「ふ、不意打ち禁止っ」

「そう。でも、体が勝手にね?」

「理由になってない!」

「ふふ、やっぱりセリは怒った顔が一番可愛い」


 何が可愛い、だ。このキス魔め。

 と、怒鳴ってやれない理由がひとつ。

 間近で微笑む彼の姿が―― 憧れのナツだからだ。


「似合うと思ったんだ、これ。服、他にもクローゼットに入れておいたから好きに使って」


 トレードマークの金髪が、目の前で光に透ける。

 普段は冷たい印象の瞳が優しく細められているのを見たら、救●のCMソングが脳裏をよぎった。

 動悸が。息切れが。


「ありがと……」

「どういたしまして」


 続けてドレッサーの前に連れて行かれ、大掛かりなメイクが始まってしまった。

 メイク用品は全てANNASUI。可愛い、こういうの好きだ。

 ゴシック系のヴィジュアルが売りの、ナツらしいセレクトだと思う。
 
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