いちご†盗人
□3、Hide-and-seek.
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肖衛は猫みたいに細い声を絞り出し、伸びをした。眠そうだ。
夕べも一昨日も真夜中まで帰って来なかったから、寝不足なのだと思う。
それもそのはず、なにやら新しいアルバム制作のため、毎日スタジオに詰めているのだとか。
浮気じゃないから安心して、と夕べわざわざ董胡が言いにきた。律儀なひとだ。
「大丈夫? 睡眠時間、二時間しかなかったよ」
「心配してくれるの? そんなに俺が大事? ますます嬉しいね」
「なっ……ちが、私はただ、えと―― そう! ファンとして、シヴィールのアルバムが心配なだけで」
「ふうん。俺は君の為に働いてるんだけどね。昼も夜も」
この人は本当に日本人だろうか。
イタリアの血が混じってたりとか……しないよね。
恥ずかしさのあまり顔を背ける。
と、彼は素早くそちらに回り込み、腕一本で進行方向を塞いでしまった。
巨大な眼鏡の向こうから注がれる視線は冷ややかで、どこか捕食者じみている。
「……朝の挨拶がまだだよ、セリ」
肖衛は狡い。歌を生業にしているからなのか、声の印象をがらりと変える発声の仕方を知っている。
そうしてこちらの虚を突いては、やすやすと自由を奪うのだ。
今回も例に漏れず、隙をついて唇を攫われてしまった。
「ン、ちょっ、あいさつならオハヨウで充分でしょ!」