いちご†盗人
□4、Look before you leap.
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で――。
肖衛を送り出してからの私はというと、実は少しだけ穏やかだったりする。
掃除機は勝手に走り回ってくれるし、食洗機と洗濯機は乾燥工程までをスイッチひとつでやってくれるから。
これは実家にいたときには考えられなかった状況だ。
金銭的に余裕があると、つまりこういうことで時間的・精神的余裕が生まれるんだろうなあと悟った五月某日。
この日も平常通り肖衛を見送った私は、リビングの窓を拭きながら徐々に色濃くなりゆく庭木を眺めていた。
早いもので、季節はもう春と言うより初夏に近い。
実家にいた時は、こんなふうに季節を感じる余裕なんてなかったように思う。となるとあのころの生活は、まるごと忙しかったってことになるのかな。
なんてことを考えていたら、エプロンのポケットで、携帯電話が鳴った。着信音は普通の電子音、ということは。
『もしもしセリ、お願いがあるんだ』
発信者は肖衛だ。というより、今は仕事場にいるわけだからナツかな。
とにかく彼の口調はいつもより早口で、少し焦っている様子だった。
「どうしたの? わすれもの?」
『ううん、実は、初穂が悪い病を再発してね』
「びょ、病気!?」
『そう。“面倒臭い病”っていう。つまり遅刻中なんだ』
「あ、ああ……」
インディーズ時代も、初穂は遅刻の常習犯だったっけ。まだあの癖、抜けてなかったんだな。
『セリにこんなことを頼むなんて筋違いだし、本当に申し訳ないんだけど、……迎えに行ってもらえないかな』
「私が?」
『うん。マネージャーも今、車で向かってるんだけど、運の悪いことに事故渋滞にハマっちゃって。このままじゃ収録に間に合わないんだよ』
お願いできないかな、と懇願する肖衛に私はやっぱりノーとは言えず、雑巾をその場に置くと、慌ただしく家を出たのだった。