いちご†盗人
□4、Look before you leap.
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プッシュ回数、約三十回。
隣の部屋と比べてチャイムのボタンが薄汚れている理由を私はようやく悟って、ついでに言えば肖衛の心労をわずかばかり理解したのだった。
確かに病的だよ。ここまでやっても出て来ないなんて。
高校時代より愛用のトートバッグをまさぐり、私はついに最終兵器を取り出す。
これは例の練習部屋から拝借してきた、初穂のマンションの合鍵だ。
こんなときのために、メンバー全員が持っているのだと言う。苦労してるなあ、みんな。
そうして室内への侵入を果たした私は、ベッドの上に眠り姫をみつけた。安らかな寝顔だ。
驚くべきことに、未だ魔法が解ける気配はない。
「……まさか本当に寝てるとは思わなかった」
零しながら、その見事な寝顔にみとれてしまった。
睫毛は長い上に綺麗にカールしているし、手触りの良さそうな銀髪には、寝癖ひとつない。
初穂は自宅にいてもやっぱり初穂なんだなあ。
プライベートにナツの姿を引き摺らない肖衛を思うと、なんだか不思議だ。
「初穂さーん、収録始まっちゃいますよ。起きて下さい」
呼びかけてみても、反応はない。痺れを切らしてその肩を揺すると、ようやく反応が返ってきた。
「……んー……、サヨ? ナオ?……アイカ?」
一体何人女がいるんだ。