いちご†盗人
□5、Easy come, easy go.
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どうも初めまして、二ヶ月ほど前、借金返済のために息子さんと嫌々結婚させて頂きました芹生と申します。ふつつかな嫁ですが、今後ともよろしくお願い致したくないけどさせていただきます。
とか、絶対に違うよね。
肖衛の両親に会わせてもらえる、と聞いて、私は真っ先にどう挨拶をすべきかで頭を抱えてしまった。
現状をどこまであかして良いものかと。
肖衛曰く、結婚したことだけは報告済み、とのことだから、問題はその先だ。
何故結婚前に挨拶をしなかったのかとか、仲良くやっているのかとか、突っ込んだことを聞かれたら嘘をつかざるを得ない。
なのに肖衛ときたら、口裏をあわせよう、でもないし対策を講じる様子もない。いいのかなこれで。
第一、息子の見合いの席にもやってこない親ってどんな人物だろう。
どうする? 大企業の社長だったりとか、意外や意外、政治家だったりしたら。
うんうん唸って苦しむ私を、肖衛はしかし運転席からにこやかに見ている。
見物料をとっても良いだろうか。
「いやだなあ、そんなに緊張すること無いよ」
「あのね、他人事みたいに言わないでよ。世間一般ではこういうの、事後承諾っていうんだよ。感じ悪いじゃない」
お姑さんにいびられたらどうしてくれるんだ。
「事後承諾? 既成事実っていうんじゃなかったっけ」
「出来てないし」作られてたまるか。
「ふうん、それは残念。精進あるのみかな」
「しなくて結構。って今、さりげなく確かめたでしょ」
「うん。セリはたやすく誘導尋問に引っかかってくれて助かる」
「……もう喋るのやめるっ」
むっとした私を横目で笑って、彼は慣れた動作でハンドルを切った。そのついでといった感じで、長袖のカットソーを肘まで捲り上げる。
細い割に筋肉質な腕は、肖衛というよりナツを象徴するアイコンに思えて、私の心はアンバランスに揺れる。
もう、どっちにドキドキしたらいいのかわからない。