いちご†盗人
□7、Speak of the devil.
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『違わないっしょ。好きでもない男の誘いに、嫌々つきあうわけだから』
「別に嫌々、ってわけじゃ」
『じゃあ嬉しいの? 坂口肖衛のこと、あれだけ嫌ってたのに。まさか何度も抱かれるうちに体ごとほだされたってわけ。それとも情でもうつった?』
「ち、違っ、そんなことないし!」
『ならさ、テキトーでいいじゃん、服なんて』
「そういうわけにもいかないから困ってるんだよ!」
だって初めてのデートなんだもん。
声をひそめたまま荒げると、電話の向こうで未知がおもむろに息を吐いたのが聞こえた。
『アンタさあ……』
意味深に濁された語尾は、マイクの向こうの風音にかき消されて消える。
何か困らせるようなこと言ったかな、私。
『……まあいいけど。あたしなら、デートと言えば動きやすいミニ丈が基本かな。行き先にもよるけど』
「ミニね、うん、わかった」
『あ、でも、あたしの友達で主婦やってる子は、旦那とのデートには上品にキメるって言ってたよ』
「上品?」
『うん。ツインニットに膝丈スカートとか。ほら、旦那の会社の人にばったり遇ったとき、恥をかかせないためじゃん』
なるほど。
『あとは普段じゃ着ないタイプの服を選ぶって言ってたかな。いつもスカートならパンツにする、みたいな。あたし、結婚してないから主婦のデート事情はこのくらいしかわかんないよ』
「ううん、貴重な話をありがと。参考にする」
『そう? ま、気合い入れて頑張れよ』
「うん」
『即答かよ』
「え、だめかな」
『駄目じゃないけど。でもそれってさぁ……』
未知はやはり何かを言いたげにしていたけれど、突如切り替えるようにして声のトーンを上げた。
『ところで、結婚してから実家には帰ってんの?』
耳に痛い話題だなあ、と思った。