いちご†盗人

□#An extra entertainment. 2
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「未知は紫色が似合うと思う」

「はあ? ババアのアフロかよ」


 じゃなけりゃ一昔前の特攻服だろ、とあたしは卑しくも舌打ち。

 イメチェンしたいっつってるのに、似合う色とか言うかね普通。しかも紫。

 ここは冗談でもピンクとかいうタイミングだろが。


「もー、どうしてそこでアフロを連想するかな。普通、紫っていったらアメジストとかさ。あ、ほら、聖徳太子に言わせれば紫は一番上の位じゃん」


 おまえは何時代の人間だよ。

 再度舌打ちしながらも、あたしは彼女の血色のいい頬を前に、ああよかったなあと密かに安堵するのだった。

 彼女――芹生(せりな)は、あたしの親友。

 ちょっと前に結婚した彼女は、それまで酷く貧乏で、しょっちゅう貧血で倒れていた。

 もともとあたしたちは高校一年のときのクラスメイトなんだけど、意気投合したのは二学期に入ってからで、それも学校外での出来事。

 意外だったなあ、と思う。まさかシヴィールのライブで出くわすなんてさ。

 芹生は(胸のサイズ以外は)本当に普通の子で、ロックなんか聴かないタイプだと思ってたからね。

 ちなみにシヴィールってのはちょっと前までインディーズだった、五人組のシブいロックバンドのことだ。

 芹生はヴォーカルのナツに熱を上げてたけど、あたしはギターの董胡(とうご)の大ファンだった。

 董胡は四十歳なのにどこか少年っぽくて、ギターを抱き込むように弾く姿がセクシーで、全体はいぶし銀みたいで、とにかくいい男の代名詞みたいな人。

 ずっと憧れてた。どんな男と付き合ったって、あたしの最上級は常に彼だった。

 だからまさか、彼の元で働ける日が来るなんて夢にも思っちゃいなかったんだ。

 今でも夢かと思う。

 このあたしが、シヴィールの所属する音楽事務所“クアイエットゾーン”の事務員になれたなんて。

 僥倖とでもいうのかね、こういうの。
 
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