いちご†盗人
□14、What shall I do?
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酸素不足で表情も乏しくなってきた私を見、初穂は両手を腰に当ててため息をつく。
「体力不足か。しょうがねえなあ」
そうしてくるりと背を向けると往来でしゃがみ込み、「ほら、乗れ」後ろ手に来い来いと手招きをしたのだ。焦ってしまった。
「いいってば! ひ、人前だし」
「俺が嫌なの。おまえのそのエロい声、他の男には聞かせたくねえし」
「え、エロっ……!?」
「それとも何? 俺は彼氏なのにおまえをおぶる権利もないってわけ」
そう、斜め下からいじけた目で見つめられては、断固拒否の姿勢もつらぬけなくなってしまうから困る。
――初穂との交際宣言から一週間が経過し、私は彼との初デートの日を迎えた。
訪れているのは、以前から彼がさかんに誘ってくれていた某テーマパーク……ではなく、郊外にある小さな遊園地だった。
ここがいいと言ったのは私だ。絶叫マシンはないし、どこにいても目立ってしまう初穂には、ひとけの少ないローカルな場所のほうが安全だろうと踏んだためだ。
しかし、彼がその銀髪を隠すために茶髪のウィッグと中折れ帽、そして眼鏡をしてきたのには驚いた。
変装をするタイプだとは思わなかったし、なによりそれが似合っていたから。しっくり来すぎて待ち合わせ場所で彼を見つけられなかったくらいだ。
いつもは中性的で猫みたいな、確立した“初穂”という生き物の彼は今日、私にとってちゃんと“ひとりの男性”だった。
彼の背に揺られながら恥ずかしさに顔を伏せたら、甘い匂いがした。うなじあたりからだ。
濃密で甘くて、少し、汗が混じった花のような香り。むせ返りそうになる。
肖衛はもうすこし控えめで、例えるなら紅茶のような匂いだったんだけどなあ、と思ってすぐにかき消した。
忘れるんだ。
忘れるんだ、肖衛のことなんか。