Peewee
□歌い鳥、嘯く
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「げほっ……」
喉の奥からせり上がってくるような酷い咳。苦しい。
どうして政府はこういう、ウィルスのるつぼに加湿器設置を義務付けないのだろう。疑問。
手荒いうがいのCMをするより、よっぽど効果がありそうなのに。
思わず上半身を屈めると、ふいに、背中に温かいものが触れた。
優しく肩甲骨の間を過ぎては戻るそれが、背中をさすってくれているのだと気付いて、首だけで振り返る。
つり革にゆるりと手首を引っかけている、大学生風の男性とばっちり目が合った。
大丈夫? とでも言いたげに、心配そうに歪んだ瞳。
微熱の影響か、元来の暢気さからか、綺麗だなあと真っ先に思った。
茶褐色の虹彩は私のものより断然大きくて、お正月休みに姉の子供が携えていたブライスの人形を彷彿とさせる。
けれど残念なことに彼も私と同じようなマスクをしていたから、その下の容貌まではうかがえなかった。
「す、みませ……ごほっ」