♪小説♪
□刹那の快楽に溺れる
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その日は想いが通じる日。
その日は想いが途絶える日。
・・・女の子にとって大事な日。
小さな包みを持って恥ずかしそうに渡すあの瞬間はどれほど気持ちが落ち着かないことか。
冬のイベント
―バレンタイン―
「ねぇ、織姫。現世にある遊園地ってところは面白いの?」
現世に任務で来たわけではなく、ただ織姫に会いに来た乱菊の開口一発目。
きっと上司にばれたら怒られるのだろうが、彼女はそんな先のことは全然考えていないのだろう。
挨拶も無しに唐突に質問する乱菊に、織姫は満面の笑顔を浮かべ言う。
「はい!すごく楽しいですよ!時間なんてあっと言う間に過ぎちゃいます!」
「へぇー、やっぱ楽しいんだ・・・。」
「行く予定でもあるんですか?」
「んー?なんかみんな忙しそうだからさ、たまには息抜きにいいかなぁと思ったのよ。」
「わぁ!楽しそうですね!いいな〜」
「もちろん、織姫も来るのよ。」
「え!?私も行っていいんですか!?」
「もちろんよ、一護も呼んだら?」
「はい!誘ってみます!あの、他には誰が来るんですか?」
「一応修兵に恋次に朽木で考えてるんだけどね」
「楽しみです!みんなで遊園地だんて!」
「じゃ、一護はよろしくね!日にちは14日でいいわよね?みんな非番の日ってそこしかないのよ。それじゃね!」
話が終わるとヒラヒラと手を振って笑顔で暗闇の空を駆けて行く乱菊。
唐突に予定が立った織姫は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、手帳の14日のところに「遊園地」と書いた。
翌日。
生憎の雨に気分も落ちそうだが、そんなのは関係なしに学校へと向かう織姫。
水溜りを避けながら歩くが、自転車や自動車が通るたびに地上から飛び上がる泥までは避け切れなかった。
靴が汚れていく前に学校に行ってしまおうと走り出す織姫。
結果学校についたころには靴は愚か、飛び跳ねた泥が靴下にまで付着してしまっていた。
「走ったのは失敗だったかな・・・。まぁいっか。いつもより早く学校に着いたんだし。」
教室の扉を開けると寒い廊下とは別世界のように暖房が効いていた。
マフラーや手袋を外し、教室内を見渡す。
そして一護の姿を織姫の両目が捕らえた。
「黒崎くん!おはよう!」
「おぅ、井上」
静かに本を読む一護に元気よく挨拶をする織姫。
一護は読んでいた本を閉じ、窓の外を見た。
そこにはしとしとと降り続く雨が変わることなく景色を作っていた。
「雨やまねぇな。」
「うん・・・。」
繋がる言葉が見つからない織姫は昨日の出来事を思い出した。
「そうだ!ねぇ、黒崎くん、14日空いてない!?」
「14日って明後日じゃねぇか?その日って・・・」
「あ、バレンタインだね、そういえば。先約があるの?」
「いや、なんつーか・・・、井上こそいいのか?俺なんか誘って。」
内心その日に自分なんかを誘ってくれる織姫に嬉しいと思いながらも動揺してはいけないと必死に隠す一護。
「昨日乱菊さんが来てね、みんなで遊園地に行こうってなったの!他には恋次くんと朽木さん、修兵さんが来るって言ってたよ」
(二人きりじゃないのかよ!)
一護の心の叫びなどまったく気づかない織姫は、「楽しそうだよねぇ」と微笑んでいた。
「もしかして遊園地って嫌いかな・・・?黒崎くんそういう人が多いところって苦手そうだし・・・。」
「いや、行くよ。」
即答する一護に織姫は目を大きく開いたが、すぐに満面の笑みを浮かべると一言、
「楽しみだね!」
と言った。
数分前まではちらほらとしかいなかった生徒も、チャイムが鳴るギリギリの今、ほとんどの生徒が揃っていた。
一限目の英語に始まってあっと言う間に数時間が経ち放課後になっていた。
「じゃ、黒崎くん!14日忘れちゃダメだよ!!」
最後に念を押す織姫に「わかってるよ、じゃあな。」と軽く手を上げ一護は帰っていった。
(みんなで遊園地なんて楽しみだなぁ。黒崎くんもいるし!)
(私14日非番じゃなんだけど、まぁいっか。遊園地とやらを堪能しなくちゃねぇ〜)
(松本殿にすごい勢いで誘われた遊園地・・・久しぶりの息抜きになるといいのだが・・・)
(バレンタイン・・・に井上と一緒に過ごすのか・・・。他の奴らは・・まぁどうでもいいか。)
(乱菊さんと親しくなるチャンスだ!なんとしても・・・!)
(めんどくせぇな・・・けどルキアに絶対来いって言われちまったしな・・・。)
それぞれの思いが絡み合いながら、その日はやってきた・・・。
天気も悪くなく、時折やや強めの風が髪やマフラーをなびかせていく。
ゲートを通る人はバレンタインとあってか、どこもかしこもカップルばかりだった。
待ち合わせ場所にはすでに乱菊以外集まっていた。
「乱菊さん遅いですね。」
織姫の言葉に合わせるかのように一護がため息をついた。
「もうしばらく待ってみよう。あまり遅いようだったらどこか暖かいところに移動したいしな。」
防寒ばっちりのルキアは誰よりも暖かそうに見えたが、やはりまだまだ風は冷たい。
「そだ。なぁ、恋次、修兵。話あっからちょっとこっち来いよ。」
一護は思い出したかのように二人を呼ぶと、織姫たちとは少し離れたところまで連れて行った。
「んだよ、一護。」
「今日なんの日か知ってっか?」
「・・・?なんかあんのか?」
「バレンタインだよ。女が好きな男にチョコ渡す日。」
「現世にはそんな日があるのか!?」
「だが・・・それなら男の俺たちがどうこういうものではないんじゃないか?黒崎。」
「確かにそうだな、なんでこんな話してんだよ?一護」
「そ、それは・・・」
恋次と修兵に同時に見つめられ答えにつまる一護。
だんだんと視線が下がり気味になっているのは言葉が見つからないせいか。
しかししばらくすると意を決したかのように顔を上げた
「俺は井上が好きだ。だから、できれば二人っきりになるチャンスがほしい。」
「あ〜、それなら大丈夫ッスよね、修兵さん?」
「あぁ、実は俺たちで話し合ったんだ。阿散井は朽木、俺は乱菊さんとできるだけ絡めるようにしようってな。」
「ってことは自然に俺と井上になるってことだな・・・。よし!今日は協力しあってこうぜ!」
「おうよ!」
「お互いのために!」
男たちの心が一つになった。
一護たちが織姫のところに戻るとそこには既に乱菊が来ていた。
「遅い!男共!なに話してたのよ?」
遅刻してきたくせに偉そうな乱菊に謝ると、話の内容は言わず、6人は遊園地へと入っていった。
「わ!あれ面白そうじゃない!最初はあれにしましょうよ!」
乱菊が示した先には高速で駆け抜けていくジェットコースター。
「ね!ね!早く行きましょう!」
かなりノリノリに走り出す乱菊を織姫とルキアが続くように追いかける。
その後も乱菊が次々に乗るものを決め、いつのまにか前に女、後ろに男3人となっていた。
前列の乱菊たちは楽しそうに感想などを言って笑っている。
それを少々つまらなそうに見る男達
「なんか・・・違くね?」
周りには手をつないだり腕を組みながら歩く幸せそうな恋人たちがいる。
そんな人たちを見ながら一護が呟いた。
「あぁ・・・なんか想像してたのとちょっと違うよな。」
「ちょっとっつーか相当違うだろ。」
続くように恋次と修兵も不満をもらす。
「そろそろ昼飯だし、そこで行動しようぜ。」
一護の提案に頷き静かに作戦を考える男たちとは逆に、女たちは笑いが絶えることなく歩いていた。
そんな楽しそうな会話を割って修兵は乱菊に、
「乱菊さん、そろそろお腹空きませんか?」
と尋ねる。
「そうねぇ、減ったかも。なんか食べようか!」
((グッジョブ!!))
一護と恋次は心の中で修兵を褒めた称えた。