♪小説♪

□離れる温度は君のモノ
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なんども足を運んではどうでもいいような会話をする。
ふわりと笑う顔が見たい。
一つ一つの仕草をこの瞳に収めたい。
そして今日も飽きもせずにあの部屋へと行ってしまうんだ。



「あ、また来てくれたんだね。グリムジョー。」

「来ちゃ悪ぃかよ・・・。」

「ううん、嬉しいよ!」



ほらな。
こんな嬉しそうに笑うから。
惜しげもなく笑いかけてくれるお前はこんなにも眩しい。
ソファに小さく座るこいつの隣に腰を下ろすのが当たり前になってきている。
日に日にその距離が縮まっているのは気のせいなんかじゃない。



「丁度いいや。グリムジョー、甘いものは好き?」

「あ?」

「グリムジョーが来るちょっと前にね、藍染さんがケーキ持ってきてくれたの。」

「てめぇが食えばいいじゃねぇかよ。」

「う〜ん・・・。今日も絶対グリムジョーは来る!っていう妙な自信から用意だけして待ってたの。だから来てくれてよかった。」



立ち上がりカップに紅茶を注ぎ、慎重に俺のところまで持ってきてくれた。
受け取ったカップの水面は不安定に揺れていて、そこに映る自分も一緒に揺れていた。
茶色の液体ぐっと流し込み、アイツをじっと見つめる。
すると俺の視線に気づいたのか、接近してくる顔。
間近に感じるコイツの匂いが甘いのか、ケーキが甘いのか。
鼻腔から感じるそれは徐々に体に浸透していくようだ。
それにしても・・・。


「近すぎだろ・・・。」

「だって、グリムジョーが私のこと見てたから。」

「別にいいだろーが。」

「ずるい気がして私もグリムジョーのこと見つめてみたの。」

「襲うぞ?」

「グリムジョーはそんなことしないよ。」



笑って言いながら離れていく。
遠のく距離を失いたくなくて腕を伸ばせば、途中で無意味と知り重力に従ってぶらりと落ちる。



「はい、ケーキ。」

「俺はいい。」

「えー、食べようよ!ね?」

「・・・ねぇ、グリムジョー、どれくらい『あー』って言ってられる?」

「んなもん測った事もねぇよ。」

「じゃやってみよう!いくよ?さんはいっ!」

「・・・」

「・・・あれ?」

「てめぇ俺が言ってる間にソレ入れる気だろ?」

「あは、ばれちゃった?」



そこまでして俺に食わせたいのか。
ソファには逃げられるほどの広さはなく、かといって立ち上がってまで逃げる気にはなれねぇ。
目の前ではまるで戦闘態勢ばっちりと言わんばかりに構えているヤツがいるし。



「はぁー・・・、わーったよ。食うからよこせ。」

「イ・ヤ。私が食べさせてあげるから口開けて?」

「チッ」

「舌打ちはよくないよ。グリムジョー」



こうなっては仕方ない。
やると言ったらやるヤツだ。
諦めるのを待とうが意味は無いだろう。



「そんなにイヤ?」

「はぁー・・・」



本日二度目のため息。
こんな短時間で簡単にでるものなのか・・・。
せめてもの抵抗のしるしとして出来るだけ小さく口を開けた。
その瞬間・・・


「ッ・・・!」

「どう?美味しい?」



口内に広がる甘い味。
俺は露骨に嫌がった。
それを見たコイツは楽しそうに「美味しい?」と繰り返してくる。
ぜってぇ楽しんでやがる・・・。



「不味い・・・。」

「うん、顔見ればわかる。」

「てめぇ・・・」

「こんなに美味しいのになー。」



ぱくりと一口食べると俺とは真逆の反応をしやがった。
満面の笑みで二口、三口と勢いは進んでいく。


「なんだか・・・」


食べるのを一旦停止したかたと思えば、言葉も途中停止。
続きを促すように「なんだよ?」と言えば、


「こうしてると恋人みたいだよね!」


・・・予想外の言葉が返ってきた。
今度は俺の時間が止まったような気がした・・・。



「襲うぞ?」

「あはは!さっきも言ってたね。」

「今は結構本気だぜ?・・・。」



ゆっくりと押し倒した。
ソファに沈んでいく女と絡まる視線・・・。
抵抗すればやめてやったのに、俺のことを見つめてくるだけでなにもしようとしてこない。



「織姫・・・」


名前を呼んで今度は俺から顔を近づける。
あと数センチで唇が重なる・・・。
それくらい近い距離。
この数センチがとても厚い壁のようで、なかなか進む事が出来ない。



「ふふ。」

「何笑ってんだよ?」

「やっぱり、グリムジョーには出来ないよ。」

「あ?」



バタン・・・。


扉の開く音に振り返ると織姫の世話係が見ていた。


「貴様ここで何をしている?」

「見てわかんねぇのかよ。」

「押し倒してるように見えるが?」

「わかってんじゃねぇか。」

「今すぐ織姫の上から退け。」

「・・・チッ」



ウルキオラから視線を外すと、下から見上げてくる織姫と目が合った。
面白くない・・・。
まったくもって面白くない。
コイツの言ったとおり出来ないままで終わるのが悔しくて、退く間際に掠める程度に額に口付けた。


「グ、グリムジョー//」

「ウルキオラなんかより俺のがいいと思うぜ?」



赤面する織姫にそれだけ言い残し、ソファから降りた。
扉に向かって歩き出す足が妙に軽かった。


「精々俺に盗られないように頑張っとけよ。」


立ち止まりそう告げれば、「くだらん」と言うウルキオラの声がしたが、関係なく俺は部屋を後にした。
すっきりとした気分のまま俺は長い廊下を歩き出した。
明日もまたあの部屋へ行くことを考えながら・・・。





■END■
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