♪小説♪
□揺れて散って大輪恋模様
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「行きたいです!」
「ダメだ・・・。」
「どうしてですか?たまには私のお願い聞いてくれてもいいじゃないですか!」
頬に空気を溜めてウルキオラを見上げる織姫。
見上げるというよりもその視線は睨むに近かった。
身長差のせいか、いくら織姫が下からウルキオラを睨もうがそれはただの上目使いに見えてしまうわけで。
「お願いします。一生に一度のお願いだから・・・。」
「織姫・・・、」
どんなに頼んでも聞き入れてくれないウルキオラ。
そもそも何をそんなに必死になっているのか?
それは数分前の会話から始まった・・・。
「知ってます?今現世じゃお祭りの時期なんですよ?」
「祭り、か・・・。なんだ?行きたいのか?」
「浴衣着て、ウルキオラさんと一緒に花火が見れたらな〜とは思いますけど・・・。」
「残念だったな、それは叶わない望みだ。」
「浴衣着て、綿飴食べて、輪投げとかして・・・それからそれから・・。」
「・・・。」
見事に自分の世界へと旅立ってしまった彼女を放置するべきか、現実に引き戻すべきか・・・。
「・・・。」
放置するに決めたようだ。
もう何も言うまいとして楽しそうな織姫を若干哀れみの含んだ視線で見つめ、脳内では織姫の浴衣姿を想像する。
(織姫には濃い色よりも淡い色のほうが似合うな。髪を結い上げうなじが見えるその姿はきっと大人びているのだろう。ん?・・・これは妄想というやつか?)
自覚のある妄想劇場を止めることなく想像しまくる。
無言で自分の世界に入っているウルキオラとマシンガンのようにペラペラと言葉にしながら自分の世界を楽しむ織姫。
なんて異様なのだろう・・・。
しかし考えるだけなら何も問題はないのだ。
そう、考えるだけなら・・・。
「ね?お祭りって楽しそうでしょ?だから行きましょうよー!」
「いや、それは無理だ。ついさっきも言ったと思うんだが。」
「えー、私聞いてませんよ!」
(それはお前が俺の話を聞かずに妄想を繰り広げたからだろう)
心の中だけで突っ込んでおこう。
決して自分は悪くないというような態度で。
「ウルキオラさんは・・・私と一緒に花火見るのがそんなにイヤなんですか?」
「それは・・・ッ」
今にも泣き出しそうな織姫にオロオロとするが、こればかりはどうしようもない。
所詮世話役でしかない自分に彼女を外に、ましてや現世に連れて行くなど無理なのだ。
我が主に背くことになってしまう・・・。
背信行為などできるわけもなく、やはり諦めてもらうしかないのだ。
そこから織姫とウルキオラの「行きたい!」、「ダメだ」の応酬が続いていた。
「お願いします!ウルキオラさん・・・、私たち、恋人ですよね?」
「それは、そうだな・・。」
「男の人は彼女の喜ぶことをするべきなんだと思います。」
「はぁ、何が言いたい?」
「一緒に花火見れたら、私すっごく嬉しいと思うんです!一生の思い出になると思うんです!」
「そうだな・・・。俺にとっても最高の思い出になるんだろうな・・・。」
自分よりも短い時間を生きる彼女。
彼女よりも長い時間を生きなくてはならない自分。
共有できるのは一握りの時間しかなくて。
その中で思い出ができていく。
「行くか。」
「え!?本当に?」
「あぁ。見つからないように抜け出してすぐ戻れば平気だろう。」
「やったー!ウルキオラさん大好きです!約束ですからねッ!」
抱きついて愛情表現をする織姫に表情には出さないものの愛しい気持ちがこみ上げてくる。
耳元に顔を近づけ愛の囁きを・・・
「浴衣は俺が用意する。」
・・・愛の囁きをするのかと思ったらただの妄想を現実にするための言葉だった。
***********
数日前の約束からとうとう祭りの日がやってきた。
じめじめとした空気と浴衣を纏いながら人ごみをはぐれなうように手を繋ぎ歩いていく。
周囲には出店のせいか様々な食べ物の匂いがお腹を空かせるが、今は隣で恋人がいるだけでお腹一杯だ。
・・・と言えたらなんて女の子らしいだろうか。
織姫のお腹からは「腹が減った!」サインが出ている。
賑やかなせいでその音は誰に気付かれるわけではないのだが、なんとなく恥ずかしかった。
「まずは、綿飴か?」
「へ?」
「楽しそうに言ってただろう?覚えてないのか?」
「おおお、覚えてます!・・・けど、まさかウルキオラさんが覚えてるなんて思ってなかったから・・・。」
「俺の記憶能力はそんなに低いように見えるのか・・?」
「ちがいますよ。嬉しいんです!あ、もちろんウルキオラさんも一緒に食べるんですよ?」
「俺は遠慮しとく。」
「えー、そんなこと言わないで、ね?」
「・・・少しだけなら・・。」
どうやら可愛い顔でお願いされるのにとことん弱いらしい。
満面の笑顔で手を引き屋台へと向かう織姫に合わせるように小走りする。
浴衣で歩きづらいというのにいつもと変わらない元気な姿。
大人びた織姫を想像していたが実際はいつもと同じ、元気で明るい太陽のような少女だということに改めて気付かされた。
甘い綿菓子を一つ買い、それを二人で少しずつ食べていく。
その量を減らして行ってるのはおもに織姫だったが。
綿飴を持っているせいで先程まで繋がれていた手が今は寂しく空気に触れている。
それが嫌で、本当はもっと味わおうと思っていた綿飴を素早く胃に流し込み再び手を繋いだ。
突然の織姫の行動にも驚くことなくウルキオラは握り返していた。
暖かい互いの存在。
一瞬でも離れるのが嫌だった。
「花火までまだ時間ありますね。」
「そうだな・・・。織姫がしたいことを全部するには丁度いいかもな。」
輪投げ、射的、金魚すくい。
祭りの定番のものを順々に制覇していく。
無邪気に喜ぶ織姫の隣は心地よかった。
今までの世界が違って見えるほどに輝いてる。
二度と来ない今という時間を満喫できるのは、今だけ。
すべてのことを忘れてしまえるほどに楽しく過ぎていく。
「あ、」
ヒュゥゥゥ・・・
ドォォォ・・ン・・・!
花火の打ち上げが始まった。
風を切るような音のすぐあとに凄まじい爆音が響く。
心臓を直接叩いてくるような、胸が振動するようなその音。
音は耳に届くはずなのに、なぜか心に響いてきた。
大きな大輪が黒を背景に咲き誇る。
咲いたと同時に散り散りになっていくのが儚くて、美しかった。
「綺麗ですね。」
「あぁ。」
隣の少女を見下ろせば感動しているのか一筋の涙が。
その姿は花火に負けず劣らず美しかった。
夜風が織姫の髪をふわりと靡かせる。
視界に映るのは夜空に咲く大輪ではなく、人ごみの中、静かに大人の花を咲かせる織姫。
少女のように思えた横顔はすでに大人そのもの。
何よりも魅力的に思えた。
「本当に、綺麗だな・・・。」
花火が、ではなく、織姫が。
勢いよく咲いては散ってを繰り返す花火を見上げる。
散った先は何があるのか?
綺麗な姿を見せたあとは何が残るのか?
「織姫・・・、お前は散り散りになっても俺の処へ戻ってこい。」
「え?なんですか?」
小さな祈りに似た呟きは花火にかき消された。
聞き返す織姫には答えず、もう一度別の言葉を呟く。
「何処にも行くな。」
散り散りになる必要などない。
最初から最期までずっと傍にいてくれればいい。
今度は聞こえたのか聞こえないのかわからないが、織姫はウルキオラを安心させるように微笑んだ。
そして二人は空を見上げる。
終わるまでずっと、ずっと。
確かな永遠を感じた時間だった・・・。
■END■
アトガキモドキ
夏祭りネタ
ん〜・・・なんか普通すぎた気がorz
どうしてこう私には文才が無いのだろうかorz
ウルはですね、姫にはどこにも行って欲しくない。花火のような儚い存在になるな。みたいなことを思ってたってことで。
ところでウルは浴衣どこで調達したんでしょうね?