♪小説♪

□泣き顔も笑顔も隣で
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「ん・・・?」


目覚めるとそこにはウルキオラさんがいた。
同じ部屋、同じベッドで朝を迎えたようだ。
しかし私の記憶が正しいのなら昨夜私は一人で寝ていたはず。
それなのにどうして彼はここにいるのだろう?
目が覚めて最初に気づいたのは繋がっていた右手。
ウルキオラさんの左手としっかりと重なり合い、指を絡めていた。


「ごめんなさい…。」


このままでは自由に身動きができない。
強く繋がれた手を解くのが申し訳ない気がして、起こさない程度の音量で謝罪をしそっとはがす。
途端に襲ってくる寂しさと冷たさ。
そのまま手をウルキオラさんの頬に添える。


「綺麗な顔…。」


無防備なその姿に今は何をしても大丈夫な気がして、気づいたら吸い寄せられるように唇を重ねていた。
温かく柔らかい感触が脳を蕩けさせようとしてくるのを、必死に抵抗してうっすらと目を開いた。


「…!」


ばっちりと視線が交わってしまった。
驚きと恥ずかしさが一気に体を支配し、離れようと試みたものの何故か体勢が変わっていて簡単にはいきそうにない。
ついさっきまでウルキオラさんが寝ていた場所に私が寝かされ、見下ろしていた視線は見上げる形になっていた。


「ウ…、ウルキオラさん…ッ!」

「なんだ…。」

「なんだ、じゃないですよ!そこどいてくださいっ」


ポカポカとウルキオラさんの胸のあたりを叩きながら言う。


「…どうやらいつものお前に戻ったらしいな。」

「へ?」


距離をとろうともがいていると、降ってきた思いもしない言葉。
腕の力は抜け、私は何を言ってるのかと目で問うていた。


「昨日、泣いていただろう。」

「あっ…。」

「偶然聞こえた・・・。昨日だけなのか、いつもなのか…。とにかくお前は泣いていた。」

「ご、ごめんなさい。」

「何を謝る必要がある?人間は感情を持ち、涙を流す生き物だろう。」


まさか気付かれていたなんて…。
泣くという行為は弱い気がして、誰にも気づかれないように、一人で声を殺して泣くことは度々あった。
そうしないと積み上げてきたものが一気に崩れ落ちる気がしたから…。
でも、それに気づいて隣にいてくれたウルキオラさんは、人間のように感情を持っているのかもしれない。
あの強く握られた手には他人を慈しむ様な感情が込められていたもの。


「心配、してくれたんですね・・・。ありがとうございます。」

「フン…、俺のいないところで泣かれるのが嫌だっただけだ。泣くなら…俺の隣で泣け。」

「ふふ…、ウルキオラさんって、面白いですね。普通、泣け。じゃなくて、笑え。って言うんじゃないですか?」

「…なら泣くのも笑うのも俺の隣だけにしろ…。」


心配して一緒に一夜を過ごしてくれたのが嬉しい。
不器用な愛情表現が愛しい。
広いベッドの二つぶんの温もりが心地良い。
すべてが私に安らぎをくれる…。
そんな理想的な環境。
もちろんその環境は隣にウルキオラさんがいないと成り立たないわけで。


「さっそく泣いているのか・・・。」

「あ、れ…?なんでだろ…。悲しくなんてないのに…。」

「来い…。」

「ぁッ…」


一瞬のうちに腕の中におさめられ抱きしめられた。
背骨が何本か折れてしまいそうなほど強く抱かれ、少し痛い。


「まったく…お前から目が離せる日は来ないのだろうな。」

「それって世話係の勤めってやつですか?」

「…一人の男としてだ・・・。」

「じゃあ私も一人の女としてずっとウルキオラさんの傍にいますね。」


言い終え私も抱きしめ返す。
笑顔をウルキオラさんの胸に隠しながら。
こんなにも私の支えになってくれる彼に、いつかは自分が支えてあげたいと思う。
でもとりあえず今は…もう少し甘えさせてね?






■END■

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