♪小説♪

□天然姫にはご注意を
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せっかくの休みだってのに。
せっかくのデート日和だってのに。
あいつは俺の誘いを断ったわけで。
理由は最近始めたバイトがあるからだとか。
そりゃ急に誘ったのは俺だし?
当然「そうか、じゃまた今度な。」って言って電話を切ることしかできない。
結果、今かつてないほどの暇を持て余しクーラーの効いた自室にこもっていた。
確か…近くのファストフード店で働いてると言っていた気がする…。
シングルベッドの上で体勢を変えながら携帯を取り出した。
時刻は昼過ぎ。
朝からバイトをしていたのならそろそろ休憩時間のはず。
そう思った俺は新規メール作成の画面を開き短文を打ち終えると迷わず送信した。
それと同時に外に出る準備を。
準備といっても自転車の鍵をもち財布をジーンズのポケットに入れるくらいだが。
妹たちに「ちょっと行ってくる」とだけ伝えてあいつのいるところへ自転車で向かった。


「いらっしゃいませー!」


手動の扉を開けると涼しい風と店員の声が俺を迎えてくれた。
その店員の声があいつのものだということに気づくのに時間はかからなかった。
かち合う視線。
一瞬驚いた顔をしたということは、どうやら俺のメールは見てないらしい。
それもそうか。勤務中に携帯をいじるほどあいつは不真面目じゃない。


「よぉ。」

「黒崎くんっ。…店内でお召し上がりですか?」


とびきりのスマイルで他の店員と同じように注文をとろうとする井上に「店内で」と答え、前から注文してみたかったものを言ってみることにした。


「なぁ、井上。スマイルって0円だよな?スマイル100個くらいくれよ。」

「えー!?100個も?えーとえーと…100回笑えばいいのかな?」

「ぷっ…!冗談だよ、お前今最高に面白い顔してるぜ?」

「あー!黒崎くんひどいよっ。」

「悪ぃ、悪ぃ。じゃ…このバーガーセットで。飲み物はアイスコーヒー。」


適当にメニューを指さして注文を済ませる。
トレーにストローやらを置き、慣れた様子で会計まで済ませた。
最近始めたにしては手際がいいのは一生懸命覚えたということだろう。
いかにも彼女らしい。


「でもびっくりしちゃった。黒崎くんいきなり来るんだもん。」

「一応来る前にメールはしたんだけどな。」

「そうなの?ごめんね。勤務中は携帯いじれなくて…。」

「そろそろ休憩時間か?」

「ううん…。今日はあとちょっとで終わりだから休憩時間はないの。」

「そっか。じゃ井上が終わるまで待ってるよ。」

「本当!?嬉しいよ、ありがとう。」


短い会話の終了を告げるように出来上がったバーガーがトレーに乗った。
それを受け取り近くのテーブルへ。


「じゃ、またあとでな。」

「うん。それでは黒崎くん、ごゆっくりどうぞっ!」


テーブルに座りアイスコーヒーを飲みながらレジのところを見ていた。
この場所からだとしっかり井上が働いてる姿が見える。
するとそこへ一人の男性客が。
大学生くらいだろうか?高校生にしては少し大人の雰囲気が強い。
レジに近いこのテーブルからだと会話も聞こえてしまうわけで。


「ねぇねぇ、お姉さん。俺極上のスマイルが欲しいな〜?」


それは俺がさっき注文したやつじゃないか!
もう少しで飲んでいたアイスコーヒーを吹き出しそうになった。
しかし井上はとくに困った様子を見せることなく、にぱぁ…といつもの笑顔を客に0円で提供していた。
それを見て満足したのかその男性客は普通に注文をし始めた。
俺はというと、納得がいかない。
あんな簡単に井上の笑顔がいろんなやつの目に映るのかと思うとなぜか腹が立つ。
接客上仕方が無いのかもしれないが俺には我慢できない。
喉を通っていく味など美味いのか不味いのかさえわからないほど気づいたら井上のことばかり考えている自分がいた。
見ていると客だけではなかった。
一緒に働いている男どもにまで井上のスマイルは配られている。
そんなふうに笑ったらたいていの男は自分に気があるんじゃないかと錯覚してしまうのではないだろうか。
…気に入らない。


「ごめんね黒崎くん。待たせちゃって。」

「いや、別に。それより早く出ようぜ。」

「え?あ、うん。」


店を出るといくらか落ち着いた。
井上の隣を歩いていると先ほどまでの感情が薄れていく。


「なぁ井上。」

「なぁに?」

「なんだ、そのー…あ〜…」

「どうしたの?なにかあったなら話聞くよ?」


その『なにか』とやらに自分が関係してるとは思いもしない井上は心配そうに俺を見上げてくる。
俺はなんて言えばいいんだ?
「あんまり笑うな?」か?それとも「俺以外のやつに最高の笑顔を向けるのは禁止」か?
…そんなのただの独占欲だ。


「いや、なんでもねぇ…。気にすんな。」

「…?変な黒崎くん。」


天然な彼女に俺はまだまだ振り回されるようだ。





■END■




アトガキモドキ
天然な織姫にやきもちな一護を目指したんですが…
どうだろ?
微妙だな〜。
この前のアンケで一織人気だったしな。
書いてみたけど駄作になってしまったorz


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