□小説□

□恥じらい乙女
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「雨、すごいわね…。」

「あぁ。」

「結構時間かかるね。資料整理。」

「あぁ。」


…はぁ…。
さっきから何を言っても「あぁ。」としか返事をしないアメフト部キャプテン。
せっかくなにか共通の話題はないかと探して話しかけてるのにいつも続かない。
「あぁ。」と返されて私はまた別の話題を探す。
さっきからその繰り返し。
外から聞こえてくる激しい雨の音のおかげで室内は無音とは程遠いが、それでも人間の声が聞こえないのは寂しい。
そのとき、ピカッ…!と外が光った。
その直後、大きな音が響き渡っる…。


「キャッ…!」


驚き思わず声を上げてしまった。
叫んだ直後に、部屋の電気がすべて消えた。
真っ暗闇だ…。
これでは手元の資料整理の続きをすることはできないし、暗闇独特の恐怖が襲いかかってくるしで私はどうしたらいいのかわからなくなっていた。


「チッ…。」


聞きなれた舌打ちが微かに聞こえた。
そしてここにはもう一人いるんだということを思い出した。


「ヒ、ヒル魔くん…!どうしよう…!電気が…。」

「さっきの雷でブレーカーが落ちたんだろ。慌てるほどのことじゃねぇよ。」

「でも…暗いし…。」

「てめぇは暗所恐怖症か。」

「そ、…んなことないわよッ…。わかったわ。私がブレーカー上げてくるからちょっと待ってて。」

「おい、この暗闇でてめぇにできるわけねぇだろ。俺がやる」


売り言葉に買い言葉というやつだろうか。
私は勢いよく立ちあがった。
立ち上がったのは私だけではなかったらしく、2人分の立ちあがる音がした。
近くにいるんだろうということはわかってもお互いの正確な位置がわからない。
ほぼ手探り状態で歩いていると足元に何か…少し大きいもの?があったようでそれに躓いて一気に床に向って倒れいていくような感覚が…


「…えっ…!」

「ったくお前は…。」


したんだけど、覚悟していた痛みはそれほどではなかった。
倒れる瞬間に腕を引っ張られたのはわかったけど、どうやら私が倒れる力のほうが大きかったらしく、助けようとしてくれたヒル魔くんと一緒に仲良く床に倒れこんでしまったようだ。
しかし、今はそんなこと問題ではない。
本当ならお礼とか謝罪とかしなくちゃいけないんだろうけど、それどころでは無かった。
何も見えない状態で、必死に状況整理していく。
たぶん…床いあったのは鞄か何かだと思う。自分の近くに置いていたし。
それで倒れそうになったのをヒル魔くんが助けようとしてくれて、二人とも倒れたのよね…。
頭を打ち付けることを覚悟していたのに、痛くないのはそこに私ではない誰かの手があったから。
この状態でそれはヒル魔くんだとわかるけど…。
咄嗟に私の頭をかばってくれてお礼を言わなくちゃいけないんだけど…。
…じゃあ今私の胸の上にあるのは誰の手…?


「ねぇ、ヒル魔くん。ちょっと質問してもいい?」

「普通は礼が先だろ。」


倒れたままの状態で、というか重なり合った状態で私たちの会話は進んでいく。


「今、ヒル魔くんの右手って…どこにある?」

「あ?てめぇの頭に触れてんのがそうだろうが。」

「…そうよね…。それじゃ…左手は…?」

「…たぶん、てめぇの胸の上…。」

「…!」


やっぱりそうよね。それ以外考えられないわよね。


「ちょっと!早くどいてよ!いつまで触ってるつもり!?」


言い終わると同時に、また外が光った。
数秒遅れて雷が落ちる音が・・。


「きゃっ・・!」


思わず、抱きついてしまっていた。
私の上に乗っかるようにしているその人物に…。


「ほーう。えらく積極的だな。」

「ち、違うわよ!今のは…ちょっと怖くて…。」


そう、雷が怖かったから。
だから心臓の音がうるさいのだ。
決して外が光った一瞬、ヒル魔くんの顔が近くにあったからとか、そういうことを意識してるわけではない…はず…。


「姉崎、動くなよ。」

「え?」


胸に置かれていたヒル魔くんの左手は、私の顔を包み込むように添えられていた。
そして唇に触れる温かい何か…。
それは一瞬のことですぐに離れた。
同時にヒル魔くんが離れていくのがわかる。


「い、今のって…もしかして…。」


…キス?
そう思うと途端に顔が火照り始めた。
まるで全身の血液が顔に集中しているかのように熱い…。
すでにこの場を離れ、おそらくブレーカーを上げに行っているヒル魔くんに今のことを確かめるのはもう少し先になりそうだ。
今は暗くて本当によかったと思う。
こんな赤面顔、見せられるはずないもの…。







■END■






アトガキモドキ
付き合ってても付き合ってなくてもこれくらいの二人が理想かもしれない。
しかしヒル魔氏やりますな〜。
どさくさにまぎれてパイタッチとはw


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