□小説□
□走り出す乙女心
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「あら、ヒル魔くん。」
「なんだ糞マネか。」
「…何度注意してもあなたはその呼び方をやめないのね…?」
「無駄な努力はやめとけ。」
本当にこの人は私を怒らせるのが得意だ。
私はカゴに入れようとしたシュークリームを手に持ったままヒル魔くんを軽く睨んだ。
せめてもの悪あがきというか、どうせ直してくれないのなら私が怒っているということぐらい意思表示したい。
しかしそんなことが長く続くわけもなく私はあっさりと視線をシュークリームに戻した。
「こんな夜遅くにそんなもん食ってたらデブるぞー。」
「いいじゃない。女の子はたまに甘いものが無性に食べたくなるときがあるのよ。」
「排卵日か?」
「ヒル魔くん!!」
思わず声を上げてしまった。
ここが深夜のコンビニだとか、周りに人がいるとか、そういうことをすっかり忘れていた。
持っていたシュークリームが危うく潰れそうになるのを寸前でこらえ、再びヒル魔くんを強く睨んでみた。が、本人は特に気にする様子も無いようだ。
「ヒル魔くんは?コンビニに何しに来たの?」
「コンビニに買い物以外に何しに来んだよ。」
「それは…そうだけど。何を買いにきたとか、他に言い方があるでしょ。」
「じゃ無糖ガムと無糖コーヒー。」
「相変わらずね。そうだ、このシュークリーム食べてみない?結構イケるのよ?」
「てめぇは俺を殺す気か?そんなもん俺にとっちゃ毒以外の何物でも無ぇよ。」
あからさまに嫌そうな顔をしているヒル魔くん。
私がカゴに入れたシュークリームをまるで『人間の食いモンじゃねぇ』と言うかのように見ている。
この美味しさがわからないなんて人生を損してるように思えるんだけどな…。
「カゴ貸せ。」
「え?何で?」
「いいから。」
私の返事を待たずに半ば強引に私からカゴを奪い取るヒル魔くん。
その中には私が買おうとしていたシュークリームとその他の甘いものが入っていた。
そしてヒル魔くんが買おうとしていた無糖ガムと無糖コーヒーが仲間入りする。
そのままレジに向かおうとするヒル魔くんに訳がわからないままついていくしかなかった。
「ちょっとヒル魔くん?」
「なんだ、まだ甘いモン買うのかよ?」
いよいよ豚の仲間入りか?と付け加えながらニヤリと笑うヒル魔くん。
言い返せばよかったんだけど、そのまま会計を済ませてしまうから私は急いで財布を取り出した。
「私の分いくらだった?ちゃんと払うわ。」
「これくら奢ってやるよ。」
「でも…悪いし…。」
「俺が奢るって言ってんだからそれでいいんだよ。アレだ、日頃のご褒美ってことで。」
「日頃の…?」
「毎日奴隷として働いてるからな。ケケケ!」
もっと素直に言ってくれればいいのにと思いながら、そんなのはヒル魔くんじゃないかとも思う。
わかりにくく遠まわしに日頃のお礼をされ、それでもちゃんとヒル魔くんの気持ちが伝わっていて私はなんだか嬉しさで胸が満ち足りた気分になっていた。
「ヒル魔くん。ありがとう。」
「ドウイタシマシテ。」
コンビニから出るとひんやりとした風が吹いていた。
上着を着てくればよかったかな。
でもどうせ家はすぐそこだしね。
反射的に体を震わせ、先ほど受け取った袋を抱えて家に帰ろうとした。
そのとき…
頭に何かが乗っかった。
それは男物の上着だった。
「それ着とけ。風邪ひくぞ。」
「でも…ヒル魔くんが…。」
私に上着を被せたあとさっさと歩いていくヒル魔くん。
その歩幅は私よりも大きくてどんどん遠くなっていってしまう。
この速さだとすぐに姿が見えなくなりそう。
その前に…
「ヒル魔くんありがとう!」
一言お礼を言うことができた。
ちゃんと聞こえていたみたいで、ヒル魔くんは返事代わりに片手を上げてくれた。
その姿が小さくなるまで見送ってから、ヒル魔くんの上着を羽織って私も帰路についた。
直前までヒル魔くんが着ていたせいかまだ温もりが残っている上着。
妙にドキドキして一瞬で顔が赤くなるのを感じていた。
「ヒル魔くんも優しいところあるんだよね…。」
家に帰るまで私の頭はヒル魔くんのことでいっぱいだった。
とりあえず、明日もう一度お礼を言おう!
そうだ、明日はヒル魔くんにお弁当でも作ってあげようかな。
嫌いなものとかあるのかな…?
ヒル魔くんで埋め尽くされた脳内が落ちついたのは眠りについてからだった。
■END■
アトガキモドキ
わかりにくかったと思うので補足説明。
夜遅くに甘いものが食べたくなったまもりちゃんは(女の子の日って食べたくなりません?)近くのコンビニに行ったんですよ。するとそこに偶然ヒル魔さんもやってきて、なんだかんだと言い合いをはじめたんですねー。
で、日頃の感謝?的な気持ちで奢ってくれたヒル魔さん。
…わかりにく駄文でごめんなさいorz
まもりちゃんがヒル魔さんを意識し始めるお話が書きたかったんですけどそれっぽくなったでしょうか?