□小説□
□俺の邪魔をするな!
1ページ/2ページ
告白…というのは難しいものだな。
気持ちを伝える手段から考えなくてはならない…。
やはりここはベタに手紙で伝えるか?
いや、手紙で場所を指定し直接伝えるか?
それとも電話か…?
しかしそれだと相手の表情がわからないぶん余計なことを考えてしまいそうだ…。
どうしたものか…。
昨日徹夜して少女マンガを読んではベストな告白法を考えてみたがこれといっていいのは無く、気付けばノートはメモ帳のようになっていた。
「なにしてはるん?」
「…!市丸…先生…。」
そうだ。今は授業中だった。
板書されていく文字をノートに書かなければいけなのに俺は告白方法についてダラダラとメモを書いていた。
これはやばい。
見られてないと思うが焦ってノートを閉じた。
「あらま。ノート閉じたら書けへんやろ?」
「ノートを間違えたので。すぐに出します。」
俺は机の中からノートを探すふりをして市丸の様子を伺った。
座っている俺と立っている市丸では自然と見降ろされる形になっていて、それだけでも不愉快だというのにニヤニヤと笑われては胸の中にどす黒い感情が芽生えてくるように感じた。
「ほら、はよしぃ。授業終わってまうで?」
「あの、いつまでここに立ってるつもりですか?」
一刻も早く自分の机付近から離れてほしくてそう言えば、なぜか顔を近づけてくる市丸。
そのまま俺の耳元に唇を寄せ、息かかるくらいの至近距離に市丸の顔があった。
「俺にはそういう趣味は無いんですが。」
「あぁ、知っとるよ?だって君、織姫ちゃんが好きなんやろ?」
「…!」
囁かれた言葉に俺は返す言葉を失った。
見られたのか…!?さっきのノートを見られたのか…!?
「告白するんやったら……」
まだ続く市丸の言葉。
教室内は騒がしいというのになぜか俺のまわりだけ静かな空気が漂っているかのように市丸の声が響いた。
俺は市丸の言葉の続きが気になって先を促すように目で訴えるが、なかなか喋ろうとしないのでつい自分から催促してしまった。
「告白するんだったら…なんですか?」
「告白するんやったらな…?」
「はい…」
「襲えばええねん♪組み敷いちゃえばこっちのもんや。」
ちょっと待て。
今なんて言った?
俺は耳鼻科に行ったほうがいいのか?
それとも目の前の教師を教育委員会に訴えるべきか?
「あの、聞き間違えたみたいなのでもう一度お願いします。」
「だからぁ、体で気持ち伝えればええんよ。繋がりながらな♪」
…教師の言う言葉か?
いや、しかし…。
「ナイスアイディアですよ!先生!」
大賛成。
まずは関係を持つことで俺を意識してくれるはずだ。
確か少女マンガなんかでもよくネタにされている展開だったような気もする。
織姫に告白するために興味もない少女マンガを読んだのは無駄でなかったのか…!
「あらあら、まさか本気にしとるん?嘘に決まっとるやんかぁ。そないなことしてまで織姫ちゃんを自分のものにしても虚しいだけやで?」
なんなんだこの男?
俺の気分を上げさせ急降下させるスペシャリストか?
悪戯が成功したと言わんばかりにケラケラと笑う市丸を見て俺の中の何かが切れた。
しかしこの男に仕返しをしようものなら後々怖い。
もういい。相手にするだけ時間の無駄だろう。
「俺はもう市丸先生には頼らない。自分の力でどうにかしますよ。」
「ほな頑張ってなぁ。」
ひらひらと手を振り教卓へと戻っていく後姿のなんと憎たらしいことか。
…やっと静かになったな。
さて、本気でどうしたものか…。
「だいたい織姫とはクラスが違うのだから早く方法を決めなくては放課後になってしまう。休み時間になんとか行動しなくては…。」
一人呟いていると突然隣の席の男が手をあげた。
別段興味もなかった俺は構わずにまたノートにメモをしながらいろいろ考えていたのだが…。
「ん?グリムジョーどないしたん?」
「市丸ー、隣のやつがお経唱えてて集中できねぇー。」
「そら困るよなぁ。でもな?今ウルキオラくんは一生懸命なんや。そっとしといてやりぃ?」
「俺は経など唱えていない。」
「どうでもいいんだよ。とにかく黙れや。マジうっせー。なんか悩んでのか?」
「フン、貴様の低能な脳では俺の悩みなど理解できるわけあるまい。」
「偉そうなこと言っとるけどホンマはただの恋のなや…」
「あー!!先生UFOが飛んでます!!」
さすがに痛い嘘だったか?
市丸が余計なことを言おうとするから悪いのだ。
「はぁ、大人の僕がそんな嘘に…」
「どこどこ!?マジかよ!写真撮ろうぜ!」
騙されてる奴が約一名!
俺の嘘は実はクオリティが高かったのか?
あんなのでまさか場を乗り切れるとはな。
さすがに市丸はため息をついているが見なかったことにしよう。
今は隣のバカがUFOに夢中になっている間になんとか織姫への告白法を考えなくては。
「ここは放課後呼び出すというベタな展開でいくか…。」
俺は織姫にメールをして放課後教室に残ってもらうように頼んだ。
決戦のときは放課後…!!
***********
「あっという間に放課後になってしまったな。肝心の告白の言葉を考えていなかったが…まぁいい。急がなくては。」
俺は織姫を待たせては悪いと思って大股で廊下を闊歩し織姫の教室へと急いだ。
「よぉ、ウルキオラ。今暇か?暇だろ?暇だよな?」
「どう見ても急いでいるように見えると思うのだが?」
気安く話しかけてきてノイトラを置いていくくらいのつもりでスピードを速めたが、しつこくついてくるのでとりあえず少しだけスピードを緩めた。
「実はよ、このあと生徒会室にいるネリエルにプリント届けに行かなきゃなんねぇんだけど、藍染先生に鍵返さなくちゃいけなくてよ。」
「だからなんだ?俺には関係ないだろう?」
「だーかーらー、鍵のほうをお前に頼みたいわけ。俺の体は一つしか無ぇじゃん?どっちも急ぎの用だからよ。」
「…なぜ俺が…。」
「理由は簡単だ。この間織姫のメアド教えてやったろ?」
「うっ…そんなことがあったような気がしなくもないような気がするが…お前の記憶が間違っているという可能性は?」
「無ぇよ!100%てめぇの脳内に異常有りだろうが!たった一週間前のこと忘れやがって。」
「…脳内に異常がある場合はどこの病院に行けばいいのだろうか…?」
「知るか!つーか本気にすんな!じゃ、鍵頼むぜ。」
「…仕方無い。」
「サンキュー。じゃあヨロシクな!」
ネリエルのところへ行くのだろう。
そのまま鍵を俺に渡すと上機嫌で廊下を進んでいくノイトラ。
俺も急がなくては。
今の会話だけで2分もかかってしまった。
3分以内に鍵を持っていき織姫の教室まで行かなくては…。
もしかしたら先に帰ってしまってるかもしれんし…。
それから俺は猛スピードで廊下を歩いた。いや、走ったと表現したほうが正しいな。
とにかく目標の3分以内に織姫の教室までたどり着くことができた。
やればできるものだな、俺。
若干汗ばむ手で織姫の教室の扉を開けようとするが、にわかに緊張してしまい、今さら鼓動が早まった。
しかし開けなくては…!
ガラッと扉を開けばそこには織姫が…
「ん…?」
いたのだが、余計なヤツもいた。
「黒崎…貴様ここで何している?」
「はぁ?自分の教室にいて何が悪ぃんだよ。」
あぁ、そうだな。
教室にいることは問題では無い。
問題なのはその位置だ。
なぜ織姫の隣に座っている?
席が隣同士なのか?
ということは、もし教科書を忘れてしまったら机をくっつけて見せてもらえるということか…?
…くそッ!クラス替えが待ち遠しい…!
「あのね、黒崎くん。ウルキオラくん私に用事があるみたいだから、その…」
「あぁ、わーってるって。邪魔者は大人しく退散するよ。じゃあな井上。また明日。」
「うん、バイバイ!」
教室を出ていく黒崎を見送り俺は織姫の傍まで寄った。
「悪かったな。放課後に残らせてしまって。」
「ううん、大丈夫だよ!ウルキオラくんから話したいことがあるってメール貰ったとき嬉しかったし!」
嬉しい?
それは織姫が少なからず俺に好意を寄せていると思っていいのか?
調子に乗っていいのか?
組み敷いても問題無しということか?
「だってなんだか頼りにされてるな、って思えて。だからなんでも話してね!」
あぁ、そういう意味か。
期待してしまった俺がバカだったのか…。
「話したいことというのはだな…その…俺の気持ちを伝えたくて…」
「うん?」
「俺は…織姫のことが…好」
『ウルキオラ・シファーくん。至急放送室まで来てください。理事長がお待ちです。』
突然の呼び出し。
なぜ理事長が放送室で待つんだ?
理事長なら理事長室で待ってろよと思うのは俺だけか?
…いや、今はそんなことどうでもいい。
まさか放送に俺の告白を邪魔されるとは思っていなかった。
「ごめん、放送のせいでよく聞こえなかったんだけど…呼ばれてるみたいだし行ったほうがいいんじゃない?」
「あぁ…。すまないが少し待っていてもらえるか?」
「うん、もちろんいいよ!行ってらっしゃい。」