□小説□

□彼女は俺を乱す唯一の人
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「織姫、食事だ。」

「わーい!もうお腹空きすぎてたんで嬉しいです!」


持ってこさせた食事を織姫の前まで運ばさせれば、それを見た織姫が嬉しそうに目を輝かせた。
俺は役目を終えここに残る理由も無かったので部屋を出ようとしたのだが…。
いつもどおり織姫に「後で皿を下げに来る。」とだけ言い、いつもどおりに扉に向かおうとした。
しかし今日はいつもどおりに扉にたどり着くことができなかった。
服を引っ張る小さな力を感じて振り返れば、案の定俺の裾を両手で握りしめ俯いている織姫がいた。
いつもは見せなかったその反応にどうしたらいいのかわからず、かといって振り払えるわけもなく俺は動けずにいた。


「あ、あの…!」


やっと顔を上げた織姫。
何か言いたそうにしているが、なかなか言い出せないのか視線は宙をさ迷い、歯切れの悪い言葉だけが音となって俺の耳に届いてくる。


「どうしたんだ?」


できるだけ優しく言ったつもりだったが、実際にはいつもと変わらない声だったかもしれない。
自分の耳がそう感じているのだから織姫にだってそう聞こえているだろう。
ぴくりと体を震わせ恐る恐るといった感じで俺と視線を合わせると消え入りそうな声で、


「一緒にいてもらえませんか?」


と言ってきた。
ほんのりと頬を紅潮させ潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
はっきり言ってこれは反則だろう。
穢れを知らない純真無垢なその表情は俺の動きを鈍くさせる。いや、正しくは動くことさえできないほどに魅入ってしまった。


「あ、の…?ダメですか…?」

「いや、ダメというわけでは…。」

「やった…!じゃあ一緒にいてくれるんですね…!」

「それは……まぁいいだろう。早く食べろ。」

「はい!あ、ウルキオラさんも一緒に食べましょうよ!」


先ほどまでとは打って変わって笑顔になる織姫。
俺の腕を引っ張りながら一緒に食事をとろうとするその姿に不覚にも笑みが零れてしまった。
用意された食事は人間のもので俺にとっては必要のないもの。
それでも織姫は俺のぶんまで皿に盛ると、満面の笑みで「いただきます!」と言った。
目の前にある食べ物をどうすべきか考えていると織姫が不安そうに「食べないんですか?」と聞いてくるものだから俺はますますどう行動したらいいかわからない。
すると何を思ったのか織姫はスプーンで掬った液体を(スープというやつか?)俺の口元まで運ぶと、にっこり笑って一言。


「はい、アーン♪」


…つまりこれを俺に飲ませようというのか…。
仕方なく俺は閉じていた唇を薄く開けると、その隙間を狙って織姫の持っていたスプーンが侵入してきた。
温かい液体が口内に流れ込んでくるが、それと同時に口の端にも温かさを感じた。
上手く入りきらなかったのか、織姫のやり方が下手だったのか、俺の受け入れ方が問題だったのか、とにかくその液体は一本の線となって静かに落ちていく。


「ご、ごめんないッ…!」

「いや、問題無い。」


すぐに拭おうとしたが、織姫の顔が近づいてきたせいで俺の動きはまた止まってしまった。
そのまま近づいてくる織姫の唇。目的地はどうやら俺の唇付近のようだ。
そして…


「動かないでくださいね…。」


ペロリ…。
生暖かいものが口の端を這うのを感じた。
…舐められたのか…?


「…!……!?…・!!」


きっと今の俺は間抜けな顔をしているだろう。
驚きを声にすることができず、織姫の行為を止めることもできずにされるがままの状態だ。


「うん、とても美味しいです…!」


私も飲もうっと!そう続けた織姫は、言葉通り自分のスープを飲み始めていた。
何事も無かったかのように食事を続ける織姫とは反対に、俺の心臓はうるさく脈を打っている。
いつもは冷静なはずの鼓動が、今だけは織姫によって掻き乱されていた。


「これなんか美味しいですよ!」

「わかったからそんなに盛るな、とても食いきれん。」

「えー、ウルキオラさんならいけますよ!」

「何を根拠に…。」

「女の勘ですよ。」

「…関係ないと思うんだが…。」


弾む会話と食事は今までには感じたことの無いひとときを俺たちに与えてくれた。
いつもと違う日常の中に俺の知らない織姫を垣間見えた気がする、そんなありふれた日のことだった…。





■END■




アトガキモドキ
瑞稀ちゃん、リクありがとうございます!
リク内容が「ウルが天然織姫に振り回される、若干ヘタレウル」のはずなのにかすりもしない駄文になってしまった気がorz
天然な織姫を書いてみたつもりなんですよ。裾をギュっと握ったり、上目づかいをしたり、ペロリしたりw本人別に意識してない、みたいな。う〜ん…ただのほのぼの系になってしまったかな…orz
せっかく素敵なリクをしてくださったのに申し訳ないッ!
でも!リクしてくださりありがとうございました!


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