□小説□

□曇りのち快晴
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「リクオ様…。」

「ん?どうしたのつらら?」


呼んだはいいけど何を話したらいいのかわからない。
このままでは笑顔で振り返ってくれたリクオ様の表情が消えてしまう。
どうしよう、どうしよう。
何か言わなくちゃ。
でも本当に言いたいことは言えないから…。


「…今日のごはんは何がいいですか?」

「え?あ〜なんでもいいよ。つららのごはんは美味しいから。」


…代わりにどうでもいいような日常の会話を交わすの。


「なんで及川さんがリクオくんのごはんのリクエストを聞いてるの…?」


あぁ、そうだ。
ここは学校なのだ。
しかも部活中。
すっかり存在を忘れていた。
忘れていたというよりも私の頭の中はリクオ様でいっぱいだから他のことに使う空き容量は無いのだ。
だからリクオ様の幼馴染の疑問に親切に答えるほど私は暇じゃない。


「えーっと…別に気にしないでね?それよりカナちゃん家のごはんは何?お母さん料理上手だよね!」


幼馴染から疑問の視線を浴びながら必死に話をごまかそうとするリクオ様。
こんな状況をつくってしまったのは私のせいだとわかっている。
それでも私は構わずリクオ様に喋りかけ続けた。
今度は会話が漏れないように近くに寄り添いながら…。


「つ、つらら…!?」

「しーっ。声が大きいとまた家長…さんに聞かれてしまいます。」

「でもこんなぴったり傍にいたらまたカナちゃんに何か言われそうだよ。」

「だって…私はリクオ様の側近ですから!常にお傍にいるのが私の役目ですもの…!」

「…どうしたのつらら?なんか…我慢してる…?」

「ど、うしてですか?別にそんなことは…」

「あるでしょ。じゃなきゃこれは何?」

「あっ…」


私の頬を滑り落ちていく雫を掬い取りながらリクオ様の優しい手が目元から涙を奪っていく。
どうやら無意識に泣いていたようだ。


「ちょっとごめん、今日つらら具合悪いみたいだから僕送ってくね。」


そう言って私の手を引きながら教室を出ていくリクオ様。
後ろからはリクオ様のお友達の声が聞こえるがまるで聞こえないかのように振る舞っている。
これじゃ…私はリクオ様を困らせることしかできてないじゃない…。


「今日は変だよ?本当にどうしたの?」

「すみません…。」

「謝ることは無いけど…。何かあったなら僕に言ってね?」

「そんな…これ以上リクオ様に迷惑をかけることなんてできません…!」

「僕は迷惑だなんて思ったこと無いけど?」

「…です…。」

「ごめん、聞こえなかった…。もう一回いい?」

「私は…リクオ様が…好きなんです…!」

「僕もつららが好きだよ?」

「それは…!きっと家族愛みたいなものなのでしょう…?私は…違います…。」

「うーん…。それじゃ…。僕は黒も青もおじいちゃんも首無もカナちゃんもみんな好きだよ。」

「きっと…私もその中の一人なのでしょうね…。」

「何勝手に一人で悲しんでんの…。」


空気が動いたと思ったらリクオ様が近くにいた。
引かれた、手。
回された、腕。
奪われた、唇。
抱きしめられてからのことがまるでスローモーションかのように感じた。
それでもしっかりと残る唇の柔らかい感触…。
何も言えないでリクオ様を見つめていたら、真剣な瞳とぶつかった。


「みんな好きだけど…。こういうことをしたいと思うのはつららだけだから…。」

「リクオ様…。」

「まったく…。そんなことで悩まなくていいのに。」

「だって…。」

「よし、それじゃ今日は罰としてとびきり美味しいご飯作ってね!」

「…はいっ…!」


不安に思うことは何も無い。
私の気持ちは…リクオ様と重なっているから…。












日溜まりに彩られる






■END■



アトガキモドキ
つら→リクオと見せかけてちゃんとしたリクつらです^^
家族愛だと思ってたけどリクオも同じ気持ち、みたいなね。
実際あれだけ長く一緒に過ごしていたら好きなんだろうけどそれは家族愛に近いんだろうな〜と思って。
でも一人の女の子として大事に思われてたら嬉しいです!
つららは若に愛されてるのです!


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