□小説□
□温かい相合傘
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雨が好き。
特に冬の雨がすごく好き。
寒いのが好きだけど人の温かさは嫌いじゃない。
遠くなるはずの距離が近くなったから。
だから雨は好き。
冬の雨ならもっと好き。
「つらら、もうちょっとこっちおいでよ。」
「でもそうしたら若が濡れてしまいます。」
「…そんなことないよ?大丈夫だからおいで。」
「はい…。」
重たい灰色の空から降り注ぐ雨は軽快な音を立てて私たちの傘を濡らす。
あまり大きくは無い傘は私たち2人を濡らさないように頑張ってくれているが、それでもやはり隠しきれなかった肩なんかは雨にあたっていた。
「つららと相合傘するの久しぶりだね。」
「そうですね…。外出のたびに雨が降るなんてことはそうそうありませんもんね。」
一つの傘を二人で共有するようになったのは雨期のころ。
始めは照れくさくて、でもぴたりとぶつかる肩が嬉しくて。
私は若が濡れないように必死に傘を若の真上にくるようにしていた。
しかしそれは若にすぐにバレてしまい、以来傘は若が持つようになっていた。
今までは雨になると傘が二人の距離を邪魔していたのに、今では若に寄り添える喜びを教えてくれていた。
「最近は一段と冷えるね。」
「冬ですからね。当然の冷たさですよ。」
「つららは寒くないの?」
「心地いいですよ。冬は大好きです。」
「でも僕は寒い。だからもっとこっちき来て。」
「寒い日の若は甘えん坊さんですね?」
「そんなことないよ。暑くても寒くてもつららが傍にいないとダメなんだ。」
「若ったら…。それじゃ一緒にマフラー巻きましょうか?」
「うん。」
「若は…温かいですね…。」
「つららのことも温めなくちゃいけないからね。」
「ふふ、ありがとうございます。」
そして冬の雨…。
とても冷たく、
とても暖かい、
2人だけの雨。
一つの傘で雨をしのぎ、一つのマフラーで体温を共有する。
腰に回された手は当たり前かのように私を抱きよせ、1cmの隙間すら作らないように寄り添いあう。
「もう夕飯の買い物は終わっちゃってるけど…もう少し遠周りして帰ろうか?」
「そうですね…次いつ雨が降るかわかりませんし…。若との相合傘をもうちょっと続けたいです。」
「ちょっとでいいの?」
「はい。あんまり長く外にいたら若が風邪をひいてしまいますから。」
「つららはいつでも僕のことを考えてくれてるんだね。」
「当たり前ですよ。若は大事なお人なんですから。」
家までの短い道のりを冬の雨の冷たさに包まれながら歩く。
喋るたびに吐き出される息は白く、容赦ない北風は私の長い髪を舞い上げていく。
それでも温かさを感じる冬の雨。
大事な人が隣にいる幸せ。
かけがえのない時間を与えてくれる愛しい人…。
「つららの晩ご飯楽しみだな〜。」
「学校でも食べてるじゃないですか、私のお弁当。」
「それとは違った美味しさがあるんだよ。」
「おだてても何も出ませんよ?」
「何も出ないの?じゃ…手、出して?」
「はい…。」
「やっぱりつららの手は冷たいね。」
「なんか…恥ずかしいです。相合傘して手まで繋いで…。」
「冬だからいいんだよ。」
「そうですね…。」
雨が好き。
特に冬の雨がすごく好き。
若の温もりをこんなに近くで感じられる。
だから雨は好き。
冬の雨ならもっと好き…。
雫が繋ぐ私たち
■END■
アトガキモドキ
ほのぼの甘めを目指しました。
冬の雨は寒いですよねー。
手袋とマフラーは必需品ですよ。
もう少しドジっぽいつららが書きたいんだけどなぜか全然違うつららになってしまうorz
いつはドジっ子つららを書いてみたい…!