*小説*

□二度と戻らない時間
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初めて名前で呼んでくれたあの日…。


『織姫…どこにも行くな…。』


貴方の低い声が私の中で何度も響いた…。
深く、深く…。
今でも鮮明に思い出すことができる。
耳の内側で貴方の声が眠ってる…。


『お前を誰にも渡したくない…。この俺が感情を持つとはな…。』

『ウルキオラさん…私は貴方の傍にいるよ…?ずっと…。』


初めて気持ちが通じたあの日…。
それは何の前触れもなくやってきた。
二人きりの広い部屋で交わす言葉たちはお互いのためだけに存在する。
他の誰でもない…
貴方ただ一人への気持ち。


『どうした?顔が赤いぞ?』

『それは…!ウルキオラさんの顔が近いからです…!』

『接吻とやらは…顔を近づけなくては出来ないだろう?』

『あッ…』


初めて口付けを交わしたあの日…。
間近に迫る翡翠の瞳に逃げ場を奪われ貴方の唇が私の言葉を奪って行った…。
漏れる甘い吐息は脳が蕩けたサイン。
貴方以外のことを考えることなんて出来なかった…。


『俺は…織姫のすべてが欲しいんだ…。』

『なんだか…恥ずかしいです…。』

『恥ずかしがる必要など無い。こんなに綺麗なのだから…。』

『あ、あんまり…見ないでください…。』


初めて一夜を過ごしたあの日…。
恥ずかしくて、恥ずかしくて。
暗闇の中で熱が全身に広がっていく感覚がした。
貴方だけを感じられた時間…。
求められることが嬉しくて…。
不器用な愛情は私だけのためにあるとわかった…。
優しく肌を滑る手も、
耳元で私の名前を囁く唇も、
冷たさの中に優しさが宿る瞳も、
私を愛してくれた心も、
貴方を形成するものすべてが愛しい…。
だから、
だから…!


「や、めて…、もうやめて…!」


倒れていく貴方を見る日が来るなんて…
信じられなかった…。
どんどん傷を負っていく彼。
彼を倒そうと剣を振る黒崎くん。
見たくない現実がそこにはあった…。


「ウルキオラさん…!ねぇ、ウルキオラさん…!」


微かな鼓動が彼がまだ生きていることを教えてくれる。
必死に泣きながら名前を呼んでも目を開けてくれない。
血だらけのウルキオラさんに駆け寄ろうとする私の腕を黒崎くんが掴んだけどおもいきり振り払った。
今はただ、傍にいたいの…。
愛する人の傍に…。


「お願いだから…目を開けて…?私を置いていかないでよ…。」


溢れだす涙のせいで視界がぼやけるが、しっかりとウルキオラさんの手を握って声を絞り出す。


「織姫…か。」

「死にませんよね…?ウルキオラさんが死ぬわけ…ないよね?」

「す、まな…ぃ…。」


それは何に対する謝罪?
私を置いて死んでしまうから?
だったら聞きたくない…!
私はこれ以上ウルキオラさんが言葉を紡がないよう己の唇を重ねた。
私の涙と彼の血の味がする口付けはとてもじゃないが甘くは感じられなかった…。


「嫌です…こんなの…!」


目に見えて彼の命の灯火が消えかかっているのがわかる。
貴方のいない世界に色なんて無い…。
貴方のいない朽ちていくだけの夜なんて追いかけたくない…。
ずっと傍にいるから…。
一人になんてしないから…。


「ねぇ…ウルキオラさん…?私の最後のお願い聞いてくれる?」


私は彼の指先を自分の胸にあてた。
今の彼にそんな力があるのかはわからないけど…
でも…一緒にいたいから…。


「…私を殺して…?」


笑顔で貴方にお願いをするの…。
そうすればずっと一緒にいられるでしょう?
そして眩しい光が私を貫く…。
貴方の上に重なるようにして倒れこんだ。
これで…貴方を一人にすることなく…いつまでもずっと…。
最期に見た貴方が幸せそうに微笑んでたのは見間違いじゃ無いですよね?






生まれ変わったら一緒になろう…。



■END■



アトガキモドキ
本誌でこういう展開希望!
姫はウルに殺されて欲しい。
切ないけどこういう感じの終わりが見れるなら大満足なんだけど。
絶対あり得ないだろうけど。


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