*小説*
□お気に入りの
1ページ/1ページ
「リクオ様〜、早くしないと集合時間に間に合いませんよ〜?」
つららは家のどこかにいるであろうリクオに大声で呼びかけていた。
自分の声がちゃんと届いているかはわからないが早くしないと本当に遅れてしまうのだからこうするしかない。
「ごめんごめん、ちょっと持っていくものが…って、つらら!?」
「はい?なんでしょう?」
最初は申し訳なさそうに笑っていたリクオが突然声を荒げてつららの名前を呼んだ。
視線はつららに貼り付いたままだ。
突然声を荒げたリクオに驚きながらも、つららはリクオのことをじっと見る。
もちろん頭上には疑問符を浮かべながら。
「まさか…その格好で行くの?」
「…?はい。何かおかしいですか?」
「家の中でならおかしくないけど…さすがにみんなと会うんだから…。」
そう言われつららは自分の服装を見降ろす。
いつも家にいるのと変わらない白い着物のどこがおかしいのだろうか?
ちゃんと裾にも袖にもデザインが入っていてそこまで地味でもないとはずだ…と考えながらつららは一層大きくなった疑問符と一緒に頭を傾げてリクオを見た。
「はァ…。いつもはちゃんと人間らしい格好してるのに何で今日はそのままなの?」
「だっていちいち着替えるのめんどくさいじゃないですか。集まりといってもすぐ終わるでしょうし。」
「とにかくダメだよ。ちょっとおいで。」
「あっ、ちょっと…リクオ様…!?」
もうそろそろ出ないと遅刻してしまうというのにリクオは玄関に向かおうとはせずにつららの手を引っ張り家の中を歩いていく。
どこに向かっているのかはリクオの「とにかく着替えよう」という呟きでなんとなくわかった。
きっとつららの部屋へ行こうとしているのであろう。
到着したのはやはりつららの部屋だった。
リクオは勝手知ったる様子で中へ進み洋服の入っている箪笥の前で止まった。
そしてごそごそと箪笥の中を荒らしている。
「これはダメ」「これも違う」と箪笥に向かって独り言を言っている姿はとても奴良組若頭には見えない。
「つららは白が好きなの?」
「え?えぇ、まぁ…好きですけど。」
脈絡のない質問に少し遅れて返事をする。
白は嫌いじゃなかった。
自分の季節の色でもある白をいつも身に纏っているのだから嫌いなわけがない。
雪の色をした着物の袖を握りながら、つららはリクオの次の言葉を待った。
「じゃあ、これにしよう!」
そう言ったリクオの手には真白なワンピースが。
つららの肌の色にも負けないくらいそのワンピースは綺麗な白の輝きを放っていた。
「でもこれは…。」
「嫌?僕が前につららにあげたやつだよね?」
「はい…。」
「あげた日に試着したのは見たけど…それ以外このワンピースを着てる姿見たことなかったからさ。今日はこれ着なよ!」
満面の笑みでワンピースをつららに差し出すリクオ。
それを受け取りながらつららは複雑そうに頷いた。
「だって…。リクオ様からの贈り物だと思うと嬉しすぎて…いつも大切に保管してましたから…。」
赤面しながら小さく呟くつらら。
初めてこのワンピースを着た日の記憶が蘇る。
渡された大きな紙袋を開ければ中には真白なワンピースが入っていた。
それが自分への贈り物だとわかると嬉しくて、何度もリクオにお礼を言っていた。
気が付くとあの日と同じように「ありがとうございます」と囁いていた。
「ん?何か言った?」
どうやら聞こえなかったようだが、つららは「いいえ、なんでもありません」と笑顔で答えるとリクオの背中を押した。
「さ、出て行ってください。今から着がえますので。」
「それじゃ玄関で待ってるからね。」
「はい。すぐに行きます。」
数分後、真白なワンピースに身を包んだつららが玄関に現れた。
「それじゃ行こうか。」
「はい。」
リクオが右手を差し出すとつららが左手でその手を握る。
二人は眩しすぎる太陽の光を浴びながら待ち合せ場所まで向かって行った…。
輝く白は陽光の中へ
■END■
アトガキモドキ
『白いワンピース』の家を出る前の二人が見たいとのリクを頂いたので書いてみました。
なんでリクオがつららにワンピースをあげたかは想像に任せます。