♪小説♪

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(久しぶりだなぁ…)


夏休み以来帰らなかった空座町

あまり変わらない

それがこの町のいいところ

高校時代に比べれば幾分変わったけども
空座町のあたたかさは変わらない




やっと慣れてきた大学生活
やっぱり大人と子供の身体のつくりの違いの大きさに驚いた
精神とのバランスも難しい
その分完治した時の喜びは特別

あの時から『見える』人たち
哀しくなった
小さな命が世界から溢れてゆくのを
間直で見てきた

私は一人でも救いたい

そんな想いで小児科を選んだ



冬の公園が好き

特にここは高校時代
彼とよく来たとこ

この町のあたたかさは変わらない

だけど彼がいないだけで

こんなにも寒く感じてしまう

この冬を最後に十代を終わる
それを考えると余計に寒い


空を見上げる

雪が降らないかと






「……ぅぇ……ぃ…」


何か聞こえる


彼の声が聞こえる気がする

あぁ…重症だと思う

リアルに聞こえるから

閉じ込めてたのが

溢れそう





お互いの道を歩み始めて

もう1年が過ぎ去ろうとして

この冬で十代に終止符を打つ

そう思うと彼に逢いたくなった

今回空座町に帰ってきた理由

逢えないかと少し期待した


公園に来た

ふらふらと

彼をたどりたかった


「…あいたいなぁ…」

「そーゆーのは本人に言え」

「え!?」

上げていた視線を戻すと彼がいた

「オマエあっぶねーなぁ!どーすんだよぶつかって怪我でもしたら!」

なんで…いるの?


「…く…くろさきくん」

「おぅ」

「怪我…したら…六花で治してあげるよ……出来るだけ…」

「ちょっと待て!怪我しそうなのは俺じゃなくて空見上げて歩いてた井上だ。」

「あぁ!そっか」

なんか普通に彼がいる

夢じゃないよね?

「相変わらずだな」

そう少し笑いながら言う彼

眉間に皺よせてるのは変わらない

あぁ

彼だ


「くろさきくん」

「逢いたいなら逢いたいって言ってくれ。迷惑なんかじゃないから。」

「だけど」

「あ…俺のことじゃなかったか?」


そんなことない

ずっと

逢いたい気持ちが

溢れそうだった

「黒崎君に逢いたかった」

「そりゃよかった」

「黒崎君どうして?」

「あ?啓吾かたつきから連絡貰わなかったか?」

たつきちゃんから?

あぁ…この前電話で久しぶりに集まって忘年会と新年会やろうと話したっけ
その時は急ぎのレポートが終わってなくて曖昧に返事をして終わってしまった
それ以来連絡とってない

「今日だったの?」

「まーな。久しぶりだからあいつらに付き合おうかと思って。」

「浅野君に感謝しなきゃ」

黒崎君に逢えたから


「井上も行くだろ?」

「うん」

もちろん

私もみんなに逢いたい

「ちょっと早いけど行くか」

差し出された手

この手をとれることが

たまらなくうれしい




「あ。あいつら酒飲むらしーけど井上どーする?」
「え?」

「ちょっとばかしフライングな。」

悪戯をするような彼の表情

手から伝わる温もりを確かめる

彼となら

終わりではなく

始まりになれる


「あ」

半歩後ろを歩く私に振り返る


「ただいま井上」

「……お帰りなさい」


始まりはやっぱり

この場所で
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