♪小説♪

□これ以上愛せる人なんていない。
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あの日、あの時、俺たちは叶わぬ願いをした・・・。






「んッ・・・。」
もう何度目の情事だろうか。
艶のある声が漏れるのが勿体無い気がして何度も口付けた。
軋むベッド。
明かりの無い部屋。
広い空間に織姫と二人・・・。
誰にも邪魔されないこの空間をいつからか自分の居場所だと思っていた。
愛しいと思える存在にめぐり合えたこと。
自分にもこんな感情が持てたのかと驚きさえする。




「ウルキオラ・・・さん・・・?」

「・・・なんだ・・・。」

「あッ、起きてたんですね!もう寝ちゃったのかと思いました。」



「それはお前だろう」と心のなかで返事をする。
情事後の織姫はすぐに眠りにつく。
いくつもの夜を共に過ごせばわかる織姫の癖。
寝る体勢は必ず横で丸くなっていたり。
幸せそうに眠っているかと思えば突然涙が零れていたり。
起きているときでさえ表情がめまぐるしく変化していくのに、寝顔までもが俺を惹きつける。
特に涙を見るのは何故か辛かった。
誰かを想って泣く。
そんなこと俺にはできない。
少なくとも織姫に会う以前の自分では。
きっとこれは嫉妬なのだろう。
俺の世界の中心は藍染様だった。
今では織姫が俺のすべてのようで、どうしようもなく愛しい・・・。
彼女の世界も俺でいっぱいになってしまえばいいのにと何度も思った。



「あの・・・手を・・・繋いでもいいですか?」

「構わないが・・?」

「えへへ!ありがとうございます!」



握られた手は暖かく、小さく。
まぎれもない織姫のもの。



「ウルキオラさん、ありがとうございます。傍にいてくれて・・・。」

「・・・。」



それは俺の台詞だろう。
いつも傍に感じ、欲しい言葉をくれる。
とても安心するんだ・・・。



「俺が・・・傍にいたいからいるだけだ。礼などいらん。」

「いいえ。言わせてください。だってウルキオラさんのおかげで私は私でいられる。」

「・・・どういう意味だ・・・?」

「すごく不安で、怖かった時期があったんです。底の無い暗い穴に落とされたような・・・。でも、こんなふうに手を引いてくれる人に会えたから・・・。」




そう言うと絡めていた指先に力が加わった気がした。




「愛してます。」

「あぁ・・・。」



ほら、いつだって欲しい言葉をくれる。
俺の手を引いてくれたのはお前なのに。
暗闇に光が射したならそれは間違いなく織姫という存在だ。
こんなにも二人の世界が心地良いとは・・・。




「ずっと・・・一緒にいたいですね・・・。」

「あぁ・・・。」





馬鹿みたいに「あぁ」としか言えない己の口が嫌になる。
伝えたい言葉はたくさんあっても上手く言えなくて。
だから・・・
代わりに・・・
唇を使ってお前に伝えるんだ・・・。




「!」

「俺もお前と同じ気持ちだ・・・。」

「びッびびびっくりしましたぁ!不意打ちなんてずるいですよ!心の準備が・・・!」

「別にいつもしているだろう。」



掠める程度でもしっかりと残る柔らかい唇の感触。



「今度は私が不意打ちでしちゃいますからね!」

「予告してる時点で不意打ちでは無いだろう・・・。」

「あッ!」

「フッ、バカが・・・。」






こんな穏やかな時間が続けばいいと、何度も願った。
いつかは崩れていく幸せでも、今だけはと・・・。
叶わぬ願いを何度もしたんだ。

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