♪小説♪

□愛の逃避行
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遠く遠くへと羽ばたきたい。
羽のない私には無理だけれど。
だから届かない空に思いを馳せるの。
・・・どうか私を攫って・・・。
あの何者も立ち入れない聖域へ・・・。



「結婚を許されない相愛の男女がひそかによその土地に逃れること。これってなんていうか知ってます?」

「駆け落ちだろう。」

「正解!さすがウルキオラさん!」



いつだったか忘れたが辞書で駆け落ちという単語を調べたのを思い出した。
そのときの私はやたらと「逃げる」に関連するような単語ばかり調べていた気がする。
何からそんなに逃げ出したかったのか、過去の自分に問う気すら起きない。




「どうして許されない結婚なんてあるんでしょうね?相愛ならそれでいいのに・・。」

「まるで俺たちのようだな。」

「・・・そうですね・・・。」



叶わない。
知ってる。
現実は残酷だとういうことを。
あまりに無力な自分を責めてもどうにもならないことも知ってる。
やり場のない感情は静かに唇をかみ締めることでおさえていた。
私とは反対に感情を滅多に出さない彼は何を考えているかわからない。
一度でいいからその思考回路を私だけでいっぱいにしてみたい。



「ねぇ、ウルキオラさん。私たちも駆け落ち・・・しちゃいましょうか?」

「・・・何を・・・」



もっと困って。
私の言葉ひとつで表情を変える貴方がもっと見たい。



「いっそ心中とか?」

「それはいいな。」


もっと困らせたくて言ったのに返ってきたの予想外の言葉。
また無に戻ってしまう顔なら先刻のほうがずっとよかった。



「心中は・・・ダメです。」

「自分で言ったのにか?」

「私はともかく、ウルキオラさんが死んじゃうのは嫌です。」

「仮にここから二人で逃げても、お前は死ぬ。人間の命など一瞬だ。俺からしたら瞬きほどしかない。一緒に死んだほうが幸せかもな。」



そんな悲しいことを嬉しそうに言わないで。
・・・あぁ、感じる。
貴方の冷たい指先が私の首に絡められてるのが。
どんどん強まっていく力に抵抗しないのはきっと私も心の中で同じことを思っていたからなのかもしれない。
涙が零れたのは恐怖とか、悲しさなんかじゃない。
そんな気持ちは一欠けらも存在しないから。
涙が頬をつたって彼の手首にポトリと落ちた。




「死の間際でさえこんなにもお前は美しいのか・・・。」



意識が遠くなっていく。
それでも目を閉じないようにこらえる。
少しでも長く、今は私のことしか考えていない彼を焼付けたったから。



「―――――」


声にならない声が彼に届いたかはわからない。
それでも精一杯の気力を込めて紡ぎだす。
「ありがとう」と・・・。








*********




「・・・え?」

「やっと目覚めたか。」



見慣れた白い天井が一番に目に入った。
私は・・生きてる・・・?




「俺がお前を本当に殺すわけがないだろう。」

「・・・せっかく一緒になれると思ったのになー。」

「生きていてこそだろう。」

「でも・・・私は死んでもいいと本気で思ったんです。遠のいていく意識の中ひたすら喜びで満ちてました。」

「お前は死ぬまで生きればいい。」

「それって当然のことのような・・・?」





心中することもできなくて、かといって彼が私をここから攫ってくれる日がくるわけでもない・・・。
逃げられない鳥籠の中で一生踊り続けるだけ・・・。
今の私なら飛べない鳥が空に恋焦がれる気持ちが痛いほどわかる・・・。



「突然変異で羽がはえたらいいのに・・・。」




鳥篭が壊れるまできっとずっとそう思い続けるのだろう・・・。
彼とともに・・・空に思いを馳せて・・・。




■End■



*アトガキモドキ*

なんか暗いですね。
まぁそういうのが書きたかったんですけどね。

 

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