♪小説♪
□刹那の快楽に溺れる
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「ここの遊園地パスタが美味しくて有名なレストランがありますよ。」
「それじゃ織姫オススメのそのレストランに行きましょうか。朽木もいい?」
「はい。できれば白玉のある・・」
「はい、決定♪」
ルキアが言い終わらないうちに昼食は決まった。
レストランにはたくさんの人がいてかなり賑わっていた。
見た限りでは空席は見つからない。
「何名様ですか?」
「6人よ」
係員に乱菊が答えると少し困った態度を見せる係員
「2人席でしたらすぐ御案内できるのですが・・・。6人席となりますと少々お時間を頂いてしまうのですがよろしいでですか?」
「いいわよ。」
「ちょ、待ってくれ乱菊さん!」
即答する乱菊に待ったをかける一護。
「何よ?」
「2人席ならすぐって言ってるんだし、いいんじゃねぇか?」
「そうッスよ。丁度男3、女3なんですし。」
「俺とルキア・一護と井上・乱菊さんと修兵さんでどうッスか?」
「え〜、みんな一緒のほうが楽しいわよー。ってことで少しくらい待つわ。」
「それではお掛けになってお待ちください。」
必死に2人席にしようと頑張る一護たちの努力は無駄に終わった。
それでも6人一緒に食べる食事は美味しく、レストランを出たときには全員満たされたような顔だった。
様々なアトラクションをどんどん制覇していく一行は、時間が過ぎていくのにまったく気づかず遊んでいた。
いつの間にか明るかったはずの空は藍色に変わっており、太陽の光のかわりかのように電灯がついていた。
「もう夜ですね。時間が過ぎるのが今日は早い気がします。それに・・・やっぱり夜は寒いな・・・」
織姫は自分の掌に息をはぁ、っと吐き掛けると擦り合わせた。
少しでも寒さを和らげようとするが、何度息を吐きかけようと大して変わらない。
「井上、手袋使うか?」
その様子を見ていた一護が気を利かせて手袋を渡す。
「え、いいよ!大丈夫!黒崎くんが寒くなっちゃうもん」
「俺なら大丈夫だから。」
一護はやや強引に織姫の手に自分の手袋をはめた。
「ところで、松本殿。私たちはどこに向かってるのですか?」
「適当に歩いてるのよ。そのうちなにかあるかもしれないじゃない?」
しばらく歩くとその“なにか”があった。
やたらと人が多く、その真ん中には人が2、3人乗れるくらいの小さなステージががあった。
その後ろには赤とピンクのハートの飾りが付けられたアーチのようなものがある
明らかに恋人たちのための催しだとわかる。
「さー、次はどんな恋人たちでしょうか!?」
マイクを持った少し興奮気味な司会者がいた。
ステージにゆっくりと上がる一組のカップル。
恥ずかしそうな男女がそこで何をするのか気になった一行は立ち止まり、見ることにした。
「ここからだとよく見えないね。ねぇ!黒崎くん!もうちょっと近くまで行ってみようよ!」
織姫は一護の手を引くとぐいぐいと人の間を進んでいった。
残された乱菊たちは特にどうするでもなく、スピーカーから聞こえる音に耳を傾けていた。
「さて、彼氏くんは彼女さんにどんな愛の言葉を囁くのかなぁ!?」
「えっと・・・、あの・・・。来年も再来年も、これからずっと・・・毎年バレンタインは君とこの遊園地で過ごしたい・・・。」
「・・・///」
彼氏の言葉に赤面する女の子は可愛らしかった。
「すごいね・・・、でも・・・すごく幸せそうだよね。」
「そうだな・・・」
間近で見ていた織姫と一護は自分が言ったわけでもないのに顔が赤くなっていた。
体が痒くなるような、そんな感覚が今二人の中に走っている。
「いいねぇ!毎年来ちゃいなよ!お幸せに!それじゃー次は・・・そこの二人に言ってもらおうおかな!」
司会者が指差すところには一護と織姫がいた。
二人とも後ろを向き、誰だろうと言わんばかりだ。
「そこの後ろを見てる君たちだよ!さ、こっちに来て!」
司会者に腕を引っ張られ何故かステージに上がらされた二人。
「あ、あの・・・私たちは・・・!」
織姫の小さな抗議など誰の耳にも入らなかった。
「はい、それでは彼氏くんに愛の言葉を囁いてもらっちゃおー!」
一護は目の前にあるマイクをしばらく見つめ、そして目を閉じた。
織姫はおどおどと今更どうしようもないこの状況にうろたえている。
一護はそんな織姫の顎を掴むと、腰に腕を回し抱き寄せ、そのままキスした。
「・・・・・・」
司会者も沈黙。
ギャラリーも沈黙。
触れるだけの優しい口付けをされた織姫は目を点にしていたが、正気に戻ると先程の彼女のように顔を真っ赤にした。
「順番逆だけど、言わせてくれ・・・。井上・・・好きだ・・・。」
「・・・///私も・・・好きです・・・!」
二人のやりとりはばっちりマイクが拾い、乱菊たちにもはっきりと聞こえた。
「おーーっと!!これはすごい!!新たなカップルが今!!誕生しましたァァ!!皆様拍手を〜〜!!」
司会者の声に一斉に拍手が鳴り響く。
その音から逃げるようにステージが降りると一護は織姫の耳元で囁いた。
「このまま二人でばっくれるか?」
「・・・うん!!・・・みんなごめんなさい!」
二人はみんなのもとには戻らず、残り少ない14日を二人で過ごすために遊園地を後にした・・・。
「すごいわねぇ、一護のヤツ。もしかして今頃二人で抜け出してたりして。」
楽しそうに笑う乱菊。
恋次と修兵は、自分たちもこのイベントに参加するか否か本気で迷っていた。
「そろそろ帰ろうか、朽木。」
「兄様に何か買ってもいいですか?」
「もちろんよ!私も隊長にお土産買わなくちゃ!」
こうしてバレンタインは過ぎていった・・。
今日という日を境に一気に関係の変わる者。
そうでない者。
たくさんの想いがある日。
それがバレンタイン・・・。
■End■